面白い記事を見つけたので紹介。

「サービス残業肯定論」は1ミリも通用しない 不払い分は退職後でもきっちり請求しよう

ふむふむ、なるほど、法律家ってこういうロジックで考えてるのか。筆者自身も“精神論”は大嫌いなので内容にそんなに異論はないのだが、現実が彼らのロジック通りに動くとは限らない。良い機会なので、ビジネスの現場がどういう風に動くかについてまとめておこう。

1.退職者の請求した残業代を払うのは残った従業員たち

ちょうどタイミングよく維新の足立衆院議員が問題提起してくれているので、このケースに乗っかって説明しよう。

まあ中にはオーナー経営者ががっつりため込んで従業員は全員サビ残でへとへとというケースもあるのかもしれないが、普通の企業では、事業環境で既に人件費として用意できる総額が決まっている。議員でいうと、国からいくら支給されて献金がいくらあって、その中で政策研究や政治活動にいくら使って、最終的に秘書やスタッフ達に支払える人件費は限られる。国に「もっとちょうだい」とも、業者に「ちょっとまけてくれ」とも言えない。

だから、後から退職者に「あと〇百万円払ってね」と言われたら、残りの人件費から払うしかない。たぶん他の私設秘書さんやスタッフのボーナスやら基本給やらをカットして帳尻を合わせるんだろう。だから、この手の訴訟を労組は支援するどころか、すごく嫌な顔をする。彼らは元組合員が勝利した場合、自分たちの取り分が減るとわかっているからだ。

これは特殊なことでも何でもなく、以前から口を酸っぱくして言っているように、チンタラ残業しているダメ社員の残業代はみんなの財布から出ているのと同じこと。在職時に払うか、辞めた後で一括請求するかの違いでしかない。

というわけで、元同僚が未払い残業代を請求してきたら、みんなも頑張って払ってね♪


2.結果的に、みんなの基本給は下がり、残業しないと生きていけなくなる

仮に今回の残業代請求が認められ、かつ「国会議員でサービス残業なんてけしからん!」的な世論が盛り上がってしまうと、議員センセイたちは何らかの対策をとるしかない。そして、議員秘書なんていう「かならずしも時間と成果が比例するわけでもない仕事」で残業やったらやった分だけばっちり手当を支払う方法は一つしかない。それはだいたい平均でこれくらい残業やってるな、という時間を計算し、その残業代コスト分をあらかじめ引いた金額に給与水準を引き下げることだ。

要するに、これまで月50万円貰って月50時間サービス残業していた人に、月30万円の基本給と月20万円の残業代を払うという話。

同じじゃん、という人はよく考えてみよう。以前なら別に早く仕事が終わった月は早く帰っても50万円もらえたものが、これからは早く帰ると損をすることになる。ついでに言うと、月100時間残業知るのが趣味という残業バカは一気に手取りが増えるが、その増えた分は、効率よく定時に終わらせていた人からのプレゼントだ。恐らく、後者もこれからは効率なんて度外視して、一生懸命残業に精を出すはず。「残業代は長時間残業を抑制する」のではなく、「残業代こそが長時間残業を助長する」わけだ。

クレサラ問題がだいぶ片付いたため、この未払い残業代問題は、弁護士センセイ方の新たな金脈として熱い視線を集めている。たぶんこれからこうした退職者による未払い残業代問題は中小企業でも頻発し、ザルだった労務管理を(上記のようなアプローチで)きっちりメンテする企業が増えるだろう。というわけで、運良く(運悪く?)自分の会社がそうなっちゃいましたという人は、もう家族サービスとか趣味とか全部忘れていいから、頑張って残業道をきわめてくださいね♪


3.未払い残業代を勝ち取ったとしても、必ずしも幸せにはなれない

さて、まとまった金は手に入るし、元の会社にはギャフンと言わせてやれるし、元同僚なんて知ったこっちゃないしで、未払い残業代請求というのは、退職者にとっては夢のようなプランに映るかもしれない。でも、個人的にはおススメはしない。なぜか?それは一言でいうなら企業側との決定的な信頼関係の毀損であり、そういうことをしてしまうと今後のキャリアに重大な悪影響が及ぶからだ。

もちろん、中には、強欲なオーナーが何年にもわたって社員をタダ働きさせているようなケースもあるのかもしれないし、そういう場合はもちろん訴えてしかるべきだ(筆者は見たことないけど)。

ただ、それなりの期間、サービス残業を継続したということは、そこには(経営的に余裕がない、あるいは「この仕事は成果が時間に比例しないからしょうがない」といった)一種の信頼関係が存在したわけで、後から「やっぱりさかのぼって全部払ってね」というのは背後から不意打ちかますようなものだろう。筆者の感覚でいうと、採用担当者の99%はそういう人を採ることにリスクを感じるはずだ。

「前職とのもめ事なんてわからないだろう」と思う人もいるだろうが、同じ業界であれば何らかの話は伝わるものだし、今でも企業によっては応募者の情報を前職にコンタクトして確認するところもある。たとえば今回の議員秘書殿を雇用したいという議員さんは与野党問わずいないだろう。何年の秘書キャリアがあるのか知らないが、それをチャラにしたわけだ。

もちろん、労基法や判例を100%守ってると自信をもって言い切れるような会社なら「まあひどい!サービス残業なんて都市伝説かと思ってましたよ」と行って快く採用してくれることだろう。でも筆者はそういう会社は見たことも聞いたこともない。

偉い弁護士センセイがおっしゃるんだから、きっと法的には正しいんだろう。やりたければいくらでも会社を訴えるといい。でもその結果、元同僚の手取りは減って、長時間残業は慢性化して、自分の再就職の選択肢は狭まるという事実だけは覚えておいた方がいい。儲かるのは弁護士のセンセイだけである。



※本気で長時間残業や過労死を減らしたかったら、時給管理を外しつつ残業時間に上限を付ければ済む話。「長時間残業や過労死をなくせ」と普段声高に主張している一部の労働弁護士のセンセイ方が、どう考えてもムリのあるホワイトカラーの時給管理になぜに固執しているのか、筆者は理解に苦しむ。









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