次号のメルマガ前半部の紹介です。
いろいろとフットワークの軽い高市政権ですが、「働き方改革の見直し」にも着手するようです。



【参考リンク】高市早苗首相、労働時間規制の緩和検討を指示 厚生労働相らに


さっそくネット上では「さすが高市さん!猛烈社員こそが日本に必要!」とする賛成派と「過労死を容認するのか!」とする反対派がしのぎを削っています。

ただ、個人的には総理が何をどう見直したいのかがイマイチよくわからないので、現時点では何とも言えないですね。

そもそも働き方関連法案は5年経過後に見直しの議論をすることが決まっていたので、極端な話、手続き的にそれをやっているだけという可能性もありますし。

ともあれ、ここで俯瞰的に議論を整理しておくのは有意義でしょう。

働き方改革を経て日本企業の現場はどうなっているのか。手直しするべきはどこなのか。良い機会なのでまとめておきたいと思います。


残業は終身雇用の屋台骨


まず、基本中の基本事項をおさえておきましょう。それは「残業こそが終身雇用制度を支える屋台骨」だという事実です。

普通の国であれば、仕事が増えてくれば新たに人を採用して対応します。当然、仕事が減ったら余剰人員をクビにします。

ところが日本は終身雇用で原則解雇はできないため、かわりに残業の増減を通じて雇用調整するわけです。

新たに人を採用するのは、長期的に見て仕事が安定的に増え続けるような確信が持てるときだけですね。

それ以外の定期的な繁忙期は従業員みんなでいっぱい残業、暇になったら定時で退社というのが、昭和から続く日本企業の伝統的な働き方なんです。

ちなみに就職氷河期世代ですが、あれは企業が団塊世代やバブル世代を雇いすぎちゃった状態で、不良債権も抱え込んで長期的な見通しがまったくたてられない状況が重なった結果発生したものですね。

小泉・竹中改革は不良債権処理で氷河期を終わらせた功績こそあれ、格差拡大の戦犯などと非難されるいわれはないですね。

むしろ「上の世代の雇用を死守しろ」と叫んで回っていた左派こそ氷河期世代の仇でしょう。


話を残業に戻しますが、日本独特の人事制度であるメンバーシップ制というのは、この残業システムを上手く機能させるOSみたいなものなんですね。

繁忙期にみんなでわーっと取り組んで仕事を回すには、ジョブ型のようにあらかじめ業務範囲を明確化するのではなく、その都度余っている仕事を手の空いた人間に割り振れる方が好都合ですから。

だから日本企業では総合職という名前でなんでもやれる高ポテンシャルな人材を長年求めてきたわけです。

業務範囲が曖昧で、仕事の裁量もほとんどないというメンバーシップ制の特徴は、残業で雇用調整するというシステムにリンクしたものだったんですね。


では、過労死が発生するメカニズムとは。

業務範囲が曖昧で、手の空いた人に割り振るというスタイルだと、どうしても特定の人間に負荷が集中してしまう傾向があるんですね。

真面目でテキパキ仕事してる人と、日中はチンタラやってる人は数字上は同じ残業時間でも、かかっている負荷は全然違うはずですから。

でも間接部門からするとそのあたりの違いはほとんど見えないんですね。これは業務範囲が曖昧であるが故の弊害だと言えるでしょう。


さらに言えば、終身雇用そのものも負の影響大です。

終身雇用制度というのは、経営者でも株主でもない一従業員の人生を、会社に丸ごと投資させるような物です。体にロープ巻いて船のマストに縛り付けたまま働かせるようなものなんですね。

「ぶっ倒れそうだけど、逃げたりしちゃだめだ、自分がなんとかしないと」と考える真面目なサラリーマンは、けして珍しい存在ではありません。

特に、過労死では有名企業の若手社員のケースが目立ちますが、あれも根っこにあるものは同じですね。人生で一度しか使えない新卒カードを使ってせっかく入社した有名企業を、目先の仕事がきついからと逃げ出すわけにはいきませんから。

JTCで働いた経験の無い人からすると、超高給取りでもない普通のサラリーマンが死ぬまで働く感覚はまったく理解できないでしょう。

いろいろ叩かれてましたけど、こういうのは正直な感想だと思います。





実際、「Karoshi」ってそのまま英語になってますからね。それをあらわす言葉が諸外国にはない、日本独自の現象だったからです。


まとめると、残業こそが終身雇用を支える屋台骨であり、業務範囲が曖昧で裁量の少ないメンバーシップ制はそれをうまく機能させるためのOSのようなものである。

そして、終身雇用制度であるがゆえに、末端の従業員ですら組織のために身命を賭して働くことになり、「きつかったら逃げる」という本来なら労働者最強の武器が使いづらい、ということです。



では、改革はどうあるべきか。

まず、雇用調整の手段を残業ではなく雇用の数に置き換えることに異論のある人はいないでしょう。よって、残業時間に抜け穴無しの上限をつけ、その代わりに解雇規制を緩和することが必要となります。規制を緩和するか死守するかじゃなく、規制強化と規制緩和がセットで必要となるわけです。

OSもアップデートが必要ですね。過労死の温床のメンバーシップ制から、世界標準のジョブ型へシフトする必要がありますが、これは既に大々的に移行が始まっているのでお上がどうこうする必要はないでしょう。

ただ、業務範囲の明確化されたジョブ型になれば、裁量もセットで委譲できますから、ホワイトカラーについては「労働時間規制を緩和し、働いた時間ではなく成果で評価する」ホワイトカラーエグゼンプション(WE)を思い切って適用拡大すべきでしょう。※

要するに、解雇規制緩和と残業上限の徹底。同時に(裁量は業務範囲の明確化とセットで)ホワイトカラーエグゼンプションの思い切って拡大し、労働時間管理そのものは規制緩和する。

図でいうと1番が本来の働き方改革の目指す目的地ということになります。


hatarakikata













※「チンタラ働いた方が残業代を稼げる」という現在の制度では労働の質は上がりません。個人が裁量を持ち、成果を追求することでそれは実現します。

とはいえ、何らかの形で労働時間の管理そのものは残すべきだというのが筆者のスタンスです。


安倍政権の“働き方改革”における唯一の敗者は労働者



少しだけ時計の針を戻してみましょう。

安倍政権は当初はアベノミクスと並行して、解雇規制緩和をはじめとする雇用分野での規制緩和を模索していました。アベノミクス3番目の矢です(もうみんな忘れてると思いますけど)。

ちゃんと働き方改革の目的地である1番を目指そうとはしていたんですね。

ところが、連合や野党の強硬な反対で解雇規制緩和は早々にとん挫します。

さらには、社会的にクローズアップされた労災などもあって労働時間規制は緩和どころか逆に強化されることになりました。

図でいうと1番を目指していたはずが、なぜか3番に落ち着いてしまったということです。労働の質を見直すことなく、力技で残業時間だけ無理やり抑え込ませた形です。

これが安倍政権下における“働き方改革”ということになります。


と書くと「残業が抑制されたんならいいじゃないか」と思う人もいるかもしれません。実はこの状況というのは労働者側からすると最悪の結果なんですよ。

というのも、それまでさんざん「成果なんてイヤだ、働いた時間に応じて支払え」とWEに反対し続けてきたのは他ならぬ労組ですから。

分かりやすく言うと、現在の3番の状況というのはこんな感じです。


経営「働き方改革で残業は原則月45時間までね。残業代大幅にカット出来て助かったわ。過労死無くすためだからしょうがないよね」

労組「え?……浮いた分、何らかの形で還元とかは?」

経営「成果じゃなく働いた時間で払えって言ってたの君らでしょ」

労組「……」


残業というのは、特に「出世競争が既に終わっていたり、特に評価されているわけでもない普通の会社員」にとっては、ある意味自分で給料を調整できる唯一の武器だったわけですよ。

そりゃ人件費は有限なんだから皆が残業したらその分昇給や賞与が削られてとんとんにはなりますけど、とりあえず個人が使える目先の武器としては貴重なものだったわけです。

で、それが合法的に制限されたと。

そうそう、昨年に「学生がスキマバイトするイメージのあるタイミーの利用者が、実は40代以上が47%、正社員属性が21%らしい」というのが話題になりましたね。


【参考リンク】いい年してタイミーで時間の切り売りしてる大人ってバカなの?と思ったときに読む話



あれって多分、残業代カットされて苦しくなった中高年の正社員がいっぱい利用してるんじゃないですかね。

いやーそりゃきついですよ。退社してから全然縁もゆかりもない現場で毎回体張って日銭稼ぐのは。下手したら20代のバイトに「オッサン何やってんだよ」とか言われるわけでしょ?

今までだったら日中チンタラするだけでその2倍くらいは貰えてたわけで。

そりゃ労働時間の規制緩和に期待する人も多いでしょう。



【参考リンク】労働時間規制の緩和、賛成64%・反対24%


さて、勘の良い人なら、ある疑問を抱いたはず。
「でも残業は終身雇用の屋台骨なんでしょ?残業が抑制されたら困るのは経営も同じでは?」

実は意外とそうでもないんですよ。経営側が頭を使わなくても現場が何とか回してくれるから。なぜかというと、従業員は会社という船のマストに自らをロープで縛り付けたままだから。

「残業減らせ」と言われたら「はいそうですか」とさっさと退社する人もいるんでしょうが、平均的なサラリーマンなら昼休みを削ったり最悪仕事を持ち帰ったりしてでも、自身の担当業務を仕上げようとするでしょう。

プロジェクトがコケて困るのは自分自身ですから。

数年で退任する経営陣なんかよりも、実は一従業員の方が会社の10年先20年先を真剣に考えていたりするのが終身雇用制度なんですね。

だから、まあ一応は可愛い従業員のために労働時間規制を緩和してほしいとは思いつつも、ちょっとでも世論に叩かれそうになったらひっこめる程度には、経営側はこの問題にさして関心はないですね。



【参考リンク】経団連、「働きたい改革」を撤回 来春闘、首相発言への批判に配慮


それから言うまでもないですけど、この「昼休み削ったり持ち帰ってでも仕事をこなそうとする人」こそ、過労死のリスクのある人です。

だから残業規制というのは過労死を減らすメリットはほとんどないし、むしろ管理部門からすると数字で見えにくくなるデメリットすらあると個人的には考えています。

連合も働き方改革で過労死は減ってないという認識なので、問題はそこじゃないという認識はとりあえず持ってるんでしょう。


【参考リンク】労働規制の緩和検討を批判「過労死減ってない」 鹿児島で連合会長





以降、
規制緩和派賛成派が正しく、左派の批判が完全に間違いとも言い切れないわけ
高市政権の“規制緩和”はどこを目指すのか





※詳細はメルマガにて(夜間飛行)







Q:「働かないおばの対処法について」
→A:「ダメもとで人事にお願いするしかないですね」



Q:「会社の都合で現在の職に就いたのにジョブ型で評価されないのは納得できません」
→A:「まあ横並びを辞めるっていうのはそういうことなんですよね」






雇用ニュースの深層






Q&Aも受付中、登録は以下から。
・夜間飛行(11月14日配信予定)





スポンサーリンク