実質賃金が下がり続けてるんだけど今後どうなるの?と思ったときに読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。
インフレが長期化する一方で、日本人の実質賃金の低下が続いています。


【参考リンク】8月の実質賃金 去年同月比2.5%減少 17か月連続のマイナスに

インフレになれば物価にくわえ消費税や所得税も上がるわけで、個人の負担感は半端なく上がっているはず。

岸田総理がまだ増税したわけじゃないのに“増税メガネ”みたいな変なニックネーム付けられる背景には、そういう構図があるんでしょう。

庶民から見ればインフレも増税も同じというわけですね。

なぜ日本人の賃金は下がり続けるのでしょうか。そしてどこまで下がり続けるんでしょうか。いい機会なのでまとめておきましょう。


インフレで泣く人笑う人


最近めっきりみかけなくなりましたが、10年くらい前にはこんなこと真顔で言ってる人達がいっぱいいましたね。

「悪いのはデフレ。インフレになれば賃金も上がる」

今でこそ「そんなわけないだろ!」と怒る人も多そうですが、実はこれ自体は正しいです。

というのも「賃上げしてしまうと後でなかなか下げられない」という特殊事情の強い日本では、賃上げに対して経営側は常に保守的、石橋を叩いて渡るスタンスです。

「ホントはもっと賃上げしてやりたいけど、不況になったら払いきれる自信がないから」という理由で、賃上げをためらう企業がほとんどだと思います。

でも、インフレなら話は変わります。多少上げすぎたところで数年経てばあるべき水準におちつくわけですから。

「石橋をたたいて渡る」から「少々やりすぎくらいがちょうどいい」にマインドが変わるわけです。これは大きいですね。

ただし。これには条件があって、すべての人がそういう扱いに変わるわけではありません。具体的には以下のような人材だけが対象となります。

・会社から見て非常に優秀で、ほっておくと流出しかねない人材

「本当はもっと払ってやりたいけど先のことを考えると中々賃上げできない、でもいつ転職されるかとても心配だ」と会社から心配されているようなタイプですね。

そういう人にとっては確かにインフレは賃上げの追い風になるでしょう。

一方で、それとはまったく状況の異なる人たちもいます。それはこんな人たちです。

・会社から見てそもそも給料に見合ってない人、いなくなっても全然困らない人

インフレだからって、既に給料分の仕事してない人を賃上げする意味なんてありません。いなくなっても困らない人の帰属意識を賃上げで高めようなんて誰も思いません。

むしろ普通の会社なら、インフレはいらない従業員の賃金を据え置いて実質賃金を下げられる絶好の機会だと考えるでしょう。

ひょっとすると「自分は優秀ではないがお荷物でもない普通の人間だから関係ない」と思っている人も多いかもしれません。

ただ、そういう人も自分で気付いていないだけで、環境の変化によりいつのまにか「給料に見合ってない人」になってしまっている可能性があります。

というのも企業に70歳までの雇用努力を義務付けた高年齢者雇用安定法の改正や伸び続ける社会保険料により、従業員を雇用するコストは年々伸び続けているためです。

実際には会社が賃上げしたいと考える優秀者は少数派で、大多数の労働者は(本人の能力不足、雇用コストの増大などの理由は違えど)実質賃金切り下げのターゲットとなるだろう、というのが、筆者がこれまで何度か指摘してきたことです。

17か月連続で実質賃金が低下中という事実は、現実が大筋で筆者の予測通りに動いている結果のように見えます。

余談ですが、前回は「自分以外の誰かが主役の物語はインチキだ」という話をしました。

「日銀が大活躍するという物語」に期待した人は少なからずいたようですが、ぶっちゃけそういう人って上でいうところの2番目の人でしょう。

というのも、筆者はこの数年で収入の増えたビジネスパーソンをリアルで何人も知っていますが、日銀がどうたら言ってる人は一人も知りませんから。

人生の主役は自分自身なので、自身が大活躍して成功する物語を描きましょう。結局は、それが人生を豊かにする唯一の道なんですね。





以降、
みんなが気づいていない日銀・植田総裁の恐怖のロジック
弱者ほど転職する社会に






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Q:「技術系管理職の役割とは?」
→A:「大卒修士以上で技術面まで含めたマネジメントは難しいのでは」



Q:「第3号被保険者は見直すべきでは?」
→A:「大した話じゃないのでとっとと廃止すべきでしょう」






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ホリエモン動画見てる学生ってバカなの?と思ったときに読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。
SNSでプチバズってるつぶやきでこんなのがありました。





ツリーまでざっと読んでみた第一印象なんですけど、「最近の若者ってよくわかってるね」ってとこですか(笑)

そう、豊かになるには「自由競争で勝ち上がる」というのが唯一の答えです。一億総中流なんて冷戦下でたまたま実現しただけのバグで、あの頃が良かったなんて老人のたわごとなんで無視しましょう。

皆さんが要求すべきは徹底した規制緩和と自由競争の促進、これだけで十分です。

そもそも学生の人は小泉改革ガーなんて言われてもわからないでしょうけど、小泉政権(2001~2006年)とその時の経済ブレーンの一人だった竹中平蔵氏の時に行われたいわゆる小泉改革のせいで日本が貧乏になったんだ、という主張です。

ホリエモンは直接は関係ないんですが、同時代なので上記のような人からは新自由主義の象徴みたいにみなされてるようです。

まあ単なるアホなんですが、今どきこんなのに引っかかって「いいね」を推す人って2万人もいるんですね(笑)

20年近くたって今さら〇〇ガーと言い続ける人と、それを推す人ってどういうメンタリティをしているんでしょうか。

反面教師としてはいい素材だと思うので、まとめておきましょう。


日本人が貧乏になったのは終身雇用制度と社会保険料の高騰が大きな理由


まず、本当に小泉改革ってそんなに過激だったのかというと、メインは不良債権処理と郵政民営化くらいで、実際の規制緩和というのは実は大してやってないんですね。

特に雇用に関するものは「本丸の正社員に関する規制緩和はほとんど手付かずだった」と、当時の関係者はみな認めています。

少なくとも「あれ以来、日本は勝ち組と負け組に分断された」とか「弱肉強食になった」みたいな社会に影響を与えるようなインパクトは何もないです。

「アメリカの要望で日本を分断するためにそうさせたのだ」って言ってる人が身内にいたら病院に連れて行ってあげてください。



【参考リンク】規制改革20年「社会制度が最後の壁」 宮内義彦氏



あとよく言われるのが「人材派遣業の規制緩和」なんですが、そもそも派遣労働は雇用されて働く賃労働のせいぜい2.5%ほどで、それが多少規制緩和されたところで全体への影響なんてほぼゼロです。「派遣が増えたから日本人は貧乏になった」って言ってる人がいたら頭がおかしい人なので無視しましょう。

また規制緩和の理由も、正社員の労組が「工場を海外移転されたくないので、自分たちのかわりにリスクを負ってくれる働き手が国内で欲しい」と考えたのが最初で、90年代から官民で議論、設計されて実現したものです。

2000年代にぽっと出てきた竹中さんは全然知らない話でしょう。というかそもそも氏は金融・経済財政政策担当で厚労省はタッチしてないため、こういう文脈で名前が出てくる理由が筆者にはさっぱりわかりません。

ではなぜ日本人は貧しくなったのか。新興国にキャッチアップされる中で産業が空洞化したなどの様々な理由がありますが、国内的な要因としてはやはり「終身雇用のコストと社会保険料の高騰」が大きいです。

どういうことかというと、まず会社は大きな人件費という財布を一つ持っていて、そこから従業員にかかるコストを給料も含め全部払っていると想像してください。

定年が55→60→65歳と(年金の都合で一方的に)上げられ続けた結果、そこまで従業員を雇い続けられるよう、企業は(給料を抑えつつ)お金をいっぱい財布に残しておかねばならなくなりました。

また定年の引き上げにともない、新しい仕事についていけなかったり、やる気のなくなった中高年の数は増加し、一説では400万人とも言われています(筆者はもっと多いと考えています)。

彼らの給料も同じ財布から払っているので、全体の賃金水準はさらに押し下げられます。



【参考リンク】日本で「社内失業者」が増え続けている根本理由


そして、高齢化に伴いうなぎのぼりの社会保険料もやはりこの財布から支払われます。

注意してほしいのは、皆さんの給与明細に印刷されている本人負担の保険料はもちろん、実際は会社負担の保険料もやはり同じ財布から支払われているということです。

それって実質本人負担ですよね。で、それも加味すると、サラリーマンの社会保険料負担は30%という恐ろしいことになっているわけです。



【参考リンク】年齢別にみた所得税・社会保険料負担額のリアル


そりゃ貧しくもなるでしょう。

というわけで処方箋としては

「終身雇用のコストを下げる(=正社員の解雇のハードルを下げる)」
「社会保険料を引き下げる(=高齢者の社会保障をカットする+社会保険料を消費税に置き換える)」


ということになります。

たぶん「小泉改革ガー」って言ってる人達の妄想の中では、日本企業はアメリカ並みに年収2千万くらいもらっている正社員と、年収3百万円台でコキ使われている派遣社員が同じくらいいて、それで全体の賃金が下がってるみたいなイメージなんでしょう(でないと辻褄が合わない)。

そういうイメージを持つ人、そういうのを「いいね」しちゃう人って、少なくともマトモな会社で働いた経験はないんじゃないですかね。

実際には、派遣さんなんてほぼ目にすることはない一方で、仕事してるふりをする中高年社員と、天引きされる社会保険料だけがどんどん増え続ける職場というのが、多くの人にとってリアルなのではないでしょうか。





以降、
自分の人生が上手くいかなかったことを誰かのせいにしたい人
SNSはいくつもの物語の語り部であふれている






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Q:「40代以降にハードな実力主義の組織で働くには?」
→A:「40以降にひどい目にあうのは年功序列前提でやってきた人ですね」



Q:「女性に修羅場を経験させろ、はアリ?」
→A:「若い子は“修羅場”って言われてもわかんないと思うんですよね」







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企業が初任給を思い切って引き上げるとどうなるの?と思ったときに読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。
先日、GMO副社長がインタビューにおいて「新卒に初任給として710万円支給している」という点に言及し話題となりました。


【参考リンク】「新卒年収710万円」の衝撃──GMO副社長が語る真意 基準は「総合商社」


数年前にファーウェイの日本法人が「初任給として月40万円出す」とぶち上げた時は令和の黒船かと話題になったものですが、いよいよ日本企業にも初任給見直しの波が押し寄せてきた格好です。

なぜ、今なのか。そして、初任給見直しがベテラン勢に与える影響はいかなるものか。いい機会なのでまとめておきましょう。


従来の“特別枠採用”とは何が違うのか


たぶん、記憶力の良い人なら、大手日本企業が数年前からぼちぼち始めていた新卒の特別枠採用を思い出したはず。

優秀な新卒者限定で通常の初任給の2倍以上を支払う特別枠のことですね。NECやソニーが有名ですが、リリース抜きで個別に打診するようなケースも徐々に増えている印象があります、


【参考リンク】NEC「新卒年収1000万円」の衝撃 


従来の特別枠は文字通り特別な枠で、そのほとんどがコンピュータサイエンス等の最新の専門性を対象としたものでした。

通常の初任給(とそこからスタートする年功序列制度)というのは、組織の中に既にその道を究めたマスターがいることが大前提です。

だからおまえら大学出たてのペーペーは初任給から修行して毎年少しずつマスターに近づいていくのだ、というロジックですね。

でもAI界隈なんてそもそも組織の中にマスターなんておらず、大学出たての新人が最新スキルを身につけているわけです。そこである程度まとまった額を提示しないと相手になんてされるわけないんですね。

そういう意味では、今回のGMOの710万円は新卒採用58人のうち27人が対象ですから、特別枠でもなんでもないことは明らかです。※

筆者が注目したのもまさにその点で、特別だった待遇が普通のものに拡大しつつあるということです。

では、なぜそうなったのか。

「年功序列は割に合わない。最初からリスクをとって勝負したほうがいい」と考える若手が、一部の優秀層以外の普通の層にも急速に拡大している結果でしょう。

最近よく聞く「ぬるま湯に耐え切れず転職する新人」も、根っこは同じだと思います。


【参考リンク】大企業で若手の離職が増えているナゾ 不安が募る「ゆるい職場」とは


もう初任給からスタートする年功序列・終身雇用制度だと、並み以上の人を採るのは難しいし、採っても早期に離職される可能性が高いということです。

そうした流れを見極めたうえで「年功序列のメリットよりも、初任給から積んで見せたほうが採用で有利になるぞ」と判断する企業が出てくるのも当然ですね。

GMOに続く企業は今後増えると筆者は見ています。


「そんな腰の軽い新人はいやだ!うちは年功序列できっちり型にはめてやる!」

という会社の人も安心してください。

世の中には自分の実力で勝負したいって人ばかりじゃないですから。どっちかというと「自分の能力に自信がないので安定が欲しい」みたいな方が多数派ですから。

会社説明会で「うちは言われたことだけやってれば楽勝!」みたいな、いかにも仕事してなさそうなオジサンをしゃべらせとけば、そういう生き様に憧れる人材がいっぱい母集団を形成してくれるんじゃないですかね。

それで経営が安泰かどうかは知りませんけど。



※その他もほとんどが「地域No.1採用枠」なので一般的な初任給水準よりは高いはず。






以降、
誰かの賃金が上がるということは、別の誰かが下げられるということ
新ルールで泣く人、笑う人









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Q:「そごう・西武の労組はなぜ怒っているんでしょう?」
→A:「ガチで怒ってもたった一日しかスト出来ない自分達にじゃないですかね」



Q:「大病後に復職はどう配慮すべき?」
→A:「後遺症の有無で変わってくるでしょう」






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新卒採用停止するビッグモーターって大丈夫なの?と思ったときに読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。
保険金不正請求問題をはじめ、街路樹の違法伐採、パワハラ、水増し修理など、その後も続々と不祥事発覚中の中古車販売業最大手ビッグモーターですが、とりあえず(来年再来年入社の)新卒採用を見送ることに決めたとのこと。


【参考リンク】ビッグモーター 来年と再来年春の新卒採用活動を停止


以前から述べているように、終身雇用を建前とする大手日本企業では、入り口の新卒採用が唯一の雇用調整手段です。

そこを見れば会社の状況はなんとなくわかるものなんですね。

新卒採用を見送る時、その企業は何を考えているのか。そして将来何が起こるのか。いい機会なのでまとめておきましょう。


日本企業にとって新卒採用は重要な意味がある


きっと多くの人は、新卒採用についてこう考えているはず。

「経営環境が悪化した時は減らして、景気が良くなったらその分増やせばいいだけだろう」

確かに、昔からジョブ型(職務給)でやっている企業の人事なんかはそれに近い感覚です。「人を採る」というアクションに文字通りの意味しかないからです。

でも、年功序列型でそれなりに規模の大きな組織だと、事はそう単純ではありません。

そういう組織の新卒採用というのは「新人を採る」ことにくわえて、年功序列という精緻な機械を止まることなく動かし続けるというミッションが含まれているからです。

たとえば、幹部候補選抜の重要な節目である課長選抜の候補が「〇〇年から5年間までの入社者とする」というような区切りを設けている企業の場合。

その期間に2年間新人を採っていない年があると、課長候補が全然足りてない状態になってしまうわけです。課長以外の主任とか部長選抜に際しても、全部おなじような不都合が起きるわけです。
だって、勤続年数で人の価値を評価する年功序列ですから。



【参考リンク】「40代前半がいない」人手不足を嘆く旭化成社長の発言に就職氷河期世代の不満爆発


さらに言えば、人材育成という点でも影響は無視できません。日本企業は現場に放り込んで先輩の横で仕事を覚えさせるOJTが主流ですが、人が入ってこないとその流れも途切れてしまうわけです。

たとえば今の建設業は業界全体が30~40代が異常にすくなく、業界全体で技能継承に失敗しているという意見もあるほどです。

まあ要するに、景気に合わせて1割ほど上下に動かすのはしょうがないですけど、3割以上減らしたりすると確実に将来に禍根を残すということです。

そしてそれは「年功序列が維持できなくなる」とか「人材が育成できていない」という形となって必ずあらわれるということです。

そう考えると、2年連続での新卒採用凍結を決めたビッグ社は、そんな将来のことなんかより今を生き残ることに必死だということは明らかでしょう。それなりの経営危機を迎えていると言っていいと思います。

ただし。すでに内定持ってますという学生も早く逃げるべきかと言われれば、とりあえずそこまでの心配はないだろうというのが筆者のスタンスです。

同社の現状は10カウントで言えばせいぜいカウント5か6くらい。本当にピンチ(カウント9くらい)の会社なら「内定取り消し」をかけてくるはずだからです。

内定取り消しというのは実質的に雇用契約が成立した後のクビみたいなものですから、禁じ手中の禁じ手、訴えられたらまず勝てないものなんですね。

それをまだ出していないということは、同社はまだまだ戦える、復活の手ごたえはあると(少なくとも経営陣は)考えている証拠でしょう。

余談ですが、たまに新卒採用の内定取り消しを出した企業が叩かれてたりしますが、筆者は上記の理由から、むしろ学生が入社前に危ない会社からリリースされて良かったんじゃないかと考えています。

そういう会社は悪徳というより、どっちかというと「我々は艦と運命を共にするが、若い諸君は生き残って再起を図ってほしい」くらいのスタンスでしょう。




以降、
企業のアクションでわかる経営危機の度合いと未来
ビッグモーターおよび同社内定ホルダーへのアドバイス







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Q:「円のレートがずっと高かった90年代も給料は安かった?」
→A:「97年頃に一瞬上向いただけですね」



Q:「非常に魅力的だが有期雇用への転職はアリ?」
→A:「普通は有期雇用の方が高くなるはず。なので自分なら……」







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「すべての増税に反対します」って言ってる人達って何がしたいの?と思ったときに読む話

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どうも。減税派の城繁幸です。
先週、経団連会長がインタビューで「消費税を含めた増税論議から逃げるな」と提言し、話題となりました。



【参考リンク】増税議論、逃げるな 経団連会長がめざす社会像


まあ普通のビジネスパーソンからすれば当たり前すぎる内容なんですが、SNS上での上記インタビューに対するコメントを見ると反発の声も多い印象です。特に“減税派”を名乗るグループの反発が目につきますね。

彼らが頑なに消費税を嫌がる理由とはなんでしょうか。また、サラリーマンは彼らとどういった距離感で接するべきなんでしょうか。

いい機会なのでまとめておきましょう。


「増税さえ許さなければ政府は勝手に無駄を減らす」論は周回遅れの議論


筆者自身は上記の通り、どちらかというと小さな政府支持なので広い意味では減税派です。

ただ、最近目にするようになった「とにかくあらゆる増税に反対さえすれば、政府は無駄を削減して結果的に小さな政府が実現するのだ」という主張には強い違和感を覚えます。

減税って無駄を削減した結果として実現するものであって、逆が成り立つわけではないからです。
そもそも、そういうこと言う人は組織というものが全然わかってないですね。

大企業もそうですが、政府が非効率なのは全体を把握している人がおらず、それぞれの省庁、部署がそれぞれの見える範囲で活動しているからです。

だから、たとえばAIにすべてのデータをつっこんで最も効率的な予算の使い方を決めてもらい、国民が無条件でそれに従うのであればテキパキ無駄も削減され小さな政府になるんでしょう。

でも、現状のまま生身の人間にやらせても、それぞれがとりあえず目に付くところ、削りやすいところから手を付けるしかないわけです。

たとえば非正規公務員を薄給で使い倒すほど金が無い一方で、わけのわからないNPOに金をばらまいている状況が併存しているのはそういう理由からですね。

確かにお金は余っている(ところもある)のかもしれないですが、政府を飢えさせただけでそれが上手く解消される保証なんてまったくないわけです。

そういう意味では、政府というのは「無駄をなくせ」と命令しても、そのしわ寄せがどこに行くのかやってみるまでわからないブラックボックスみたいなものなんですね。

では、日本というブラックボックスに「とにかく増税せずに無駄をなくせ」という指示だけ与えたらどういう結果になるのか。

プライマリーバランスの黒字化を先送りし続け、債務残高がGDP比250%になるまで毎年大赤字を垂れ流し続けている日本は、政府を飢えさせる実験を続けてきたようなものですから。

というわけで答え合わせ。まずは、みんな大注目の社会保障給付はこんな感じです。


【参考リンク】社会保障費、40年度6割増の190兆円


ちなみに、上記試算は2018年のものですが、今年既に20年近く前倒しでGDP比25%に到達しています。「飢えさせれば減る」どころかむしろ増えるスピードが加速していることになります。



ついでに言うと、もう一つ増えているものもあります。それはサラリーマンが天引きされる社会保険料です。


【参考リンク】社会保険料率30%時代 過去最高、現役の負担余地少なく


要するに、日本というブラックボックスに「税金上げるな、無駄なくせ」という指示だけ与えると、高齢者の社会保障給付は減るどころかむしろ増える一方で、サラリーマンの手取りは猛烈に減るというオチなわけです。

言い換えるなら、日本は「サラリーマンの手取り=無駄」と判断していることになります。

「俺や俺の家族の生活費が無駄とはなんだ!」と怒る人も多そうですが、しょうがないじゃないですか。それがこの30年間の結果なんですから。

我々にできることはその残酷な現実を踏まえた上で適切にふるまうことだけです。ではどうすべきかと言えば、公平な負担を要求し、「税は財源じゃない」だの「増税さえ潰せば無駄は減る」だのといった妄言とは距離を置くことですね。

消費税は高齢者も無職も自営業も公平に負担するわけで、当然ながらもっとも有力な選択肢として議論のテーブルに乗せるべきでしょう。

あ、ちなみにこれは筆者だけが言ってる話ではなくて、ある程度リテラシーのあるビジネスパーソンなら基本の“き”だと思います。

それは連合が一貫して消費税にもインボイスにも前向きな姿勢であることからも明らかでしょう。


【参考リンク】連合会長「消費減税すべきとの考え方ない」


【参考リンク】連合・芳野会長、インボイス「着実に導入すべき」


少なくともプレイヤーとして現実の負担議論に参加している彼らの中には「すべての増税に反対しとけば無駄は減る」という考えは1%も無いということです。

さて、ここで一つ疑問が残ります。

上記のような現実を無視しつつ、今さら周回遅れの「増税さえ潰せば無駄は減る」論を主張している人達って何なんでしょうか。

シンプルに考えるなら「この30年、ほぼ一貫して社会保険料だけが上がり続けた」というオチがまんざらでもないと感じている人達でしょう。

そう、社会保険料を天引きされる立場におらず、恐らく消費税くらいしか負担していない人達です。

ここではさらしませんけど、興味ある人はtwitterのプロフに「減税派」とか書いてる人を検索してみてください。

前回紹介した「匿名、仕事の話は一切しない、社会保険料の『し』の字も出さずに平日昼間から政府にタカる話ばかりしている」ようなどうしようもないのがいっぱい釣れるはずです。

まあ(品があるかないかは別にして)彼らがそういう主張をすること自体は合理的ではありますね。自分たちの負担は抑えたまま、自分の親は世界一手厚い社会保障を仕送りゼロ円でも受けさせられるわけですから。

でも「サラリーマンで減税派です」みたいな人はどうなんでしょう。そもそも、経団連と連合に逆張りして「SNS上にしかいない主に匿名さんのグループ」に合流する感覚が筆者には全く理解できませんけどね。

というわけで、堅気のサラリーマンは減税派とは距離を置きつつ、公平な負担の実現を正当な権利として要求し続けましょう。

消費税の引き下げはむしろ社会保険料引き上げ圧力になるので断固反対を、むしろ消費税増税とセットで高すぎる社会保険料の引き下げを要求するのが筋でしょう。

そう、それはまさに経団連会長の言わんとする「消費税を含めた増税論議から逃げるな」そのものなんですね。

なーんて書くと「消費税増税を容認すれば社会保障の見直しは永遠に実現しないじゃないか!」なんていう人達もいそうですが、そういう人達には「消費税引き上げに反対したって社会保障の見直しなんて実現しなかったし、社会保険料はするする上がったじゃないか」と反論してあげてください。

繰り返しますが、状況に応じて消費税引き上げを選択し、社会全体で負担することで自分たちの負担を抑制しようとするのは、サラリーマンの当然の権利です。

無職や自営業や(経費調整しまくって所得抑えてる)中小の経営者が本来負うべき負担まで背負う余裕は、もうサラリーマンにはありませんから。






以降、
「処理水放出と同じで、限界に達するまで放置すべき」論もやっぱりサラリーマンは同調すべきではない
日本の社会保障がここまでガバガバになったのは高齢者に負担感が無かったから







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Q:「役員を目指さない技術系サラリーマンが中間管理職になる意義は??」
→A:「管理職とヒラの立ち位置が急速に見直されつつあるのは事実です」



Q:「事務職でAI普及後も安泰な仕事とは?」
→A:「とりあえず漫然とこなしているだけの仕事はアウトでしょう」






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