ストライキが流行らなくなったわけ

TBSがストライキしたらしい。気づかなかった…あんまりテレビ見ないしな。

それにしても、ストライキとは今時珍しい。
ストライキが流行らなくなったのはちゃんと理由があって、Voice4月号にも書いたように
日本型雇用では労使が一体化するためだ。

大雑把に言えば、経営者も内部昇格のサラリーマンにすぎず、コストカッターというよりは
バランサー(仕切り屋)であること、そして終身雇用下では、バランサーの下す経営判断は
たいていの労組にとっても合理的であることが理由だ。

こういう関係はよく言えば労使協調、悪く言えばなぁなぁであり、彼らは共にインサイダー
としてアウトサイダー(新卒、非正規雇用、下請けなど)を排除しようとする傾向がある。
その結果が氷河期世代であり、非正規雇用の拡大であり、大手と中小の格差である。
ちなみに経団連なんて、そういう仕切り屋の集まりに過ぎないわけだ。

これは、何も僕だけが言っている話ではない。当の労組自身も認めている事実だ。
「会社は従業員のものだ」というロジックは、ホリエモンに買収されそうになった際、
フジの労組と左派と経営陣が主張したものだ(ちなみにトップの日枝氏は労組書記長出身)。
こういう点からも、「編集と経営は別」だとか「派遣切りは経営のみの責任」という
ロジックがいかに虫のいい言い訳であるか、よくわかるだろう。

ところで、TBSのストライキである。
広告費が下がったから人件費も下がらないといけないわけで、設備投資を抑えるわけにも
いかないだろうから、いったいなにを削ればいいのだろう?
ああ、そうか、下請け(以下略)

森永卓郎という生き方

最近、なぜかあちこちで「モリタクの二枚舌」について質問されるので、
簡単にまとめておきたい。

昔からそうだが、この人は登場するメディアによって言ってることが180度変わる。
サンプロやテレビタックル等の地上波では「正社員の賃下げなんてもってのほか」
と言っているものの、日経BPだと「正社員の既得権にメスを入れろ」という
当たり前の正論をこっそりと吐く。

彼はいつも「経営者報酬は倍に増えた、だから労働者は貧しくなったんですよ」
という階級闘争史観的ロジックを口にするが、もちろん今時こんなバカ丸出しの珍説
を本気で言っているわけではない。日本の経営者報酬が激安であること、そして
そんなもん削ったって何の解決にもならないことくらい、しっかり理解している。

ちなみに倍に増えたといっても、
�@単に00年前後の不況時と比べた結果にすぎない、
�A株式持合いが崩れ、一定の経営責任が要求されるようになった(その結果、
役員退職慰労金のような曖昧なものを廃止して報酬に上乗せする上場企業が増えている)
といった事情からだ。

余談だが、いまだにこういう意見を信じてるのは、左翼の中でも相当頭の悪い人
だけなので、若い人は相手をしちゃダメだ。

他にもまだまだあるのだが、要するに森永さんという人は、メディアごとに、視聴者
読者の多数が喜ぶものを見抜き、提供しているに過ぎないわけだ。
日経でこっそり既得権問題に触れたのは、
少なくとも日刊ゲンダイや毎日新聞よりは日経読者の知的水準が高く
「100%経営者が悪い」的な論法では相手にされないと見抜いたからだろう。
氏のことを「一貫性がない」と言う経済学者もいるが、そもそも本人は一貫させる
意志など最初から持っちゃいないはずだ。

一方、使う側のメディアにとっては、モリタクはとても使い勝手の良い人ではある。
バラエティから政治討論まで何でもソツなくこなしてくれ、しかもメインの視聴層
である中高年を喜ばせてくれるのだから。彼が“経済学者の代表”として
メディアジャックしていけるのは、これが理由だ。
“正論”しか言わない学者は、正論であるがゆえに既存メディアの真ん中に
出てくることは今後もないだろう。

そういう意味では、モリタクはきわめて優秀なビジネスマンだ。
顧客のニーズを見抜き、営業トークを巧みに使い分け、顧客満足度を高めて連日の
ようにメディアに登場する。そして知名度を引っさげて執筆、講演を手広く行い、
彼が批判するトヨタの経営陣などよりずっと豊かな収入を得ているのだから。
だが、彼は断じて学者ではない。

とまあいろいろ書いてみたが、彼に悪気は無いのかもしれない。
事実、カメラの回っていない場でのモリタクは、気さくなどこにでもいるオッサン
である。
「オレは単純に視聴者が求めるものを提供してあげてるだけだ。一々かたいこと言うな」
くらいに思ってるはずだ。
だが、彼の展開するポジショントークは確実に改革を遅らせ、既得権を温存してしまう。
我々の世代にとってはとうてい看過できるものではないし、
特に立場の弱い非正規 雇用労働者はこのまま行けば十数年後、
地獄を見ることになるだろう。


貧困ビジネスという言葉が話題となっているが、日本社会に与える負の貢献度で言うなら、
僕は森永卓郎こそ最凶の貧困ビジネスマンだと思っている。
この男が嬉しそうに語るインチキ経済学によって、どれだけ世論が歪められたことか。

テレビで彼の温和な笑顔を見るたび、僕はいつもある諺を思い出すのだ。
「地獄への道は善意で舗装されている」

追い風 その2

東大の伊藤先生が貴重な援護射撃。

実は先日お会いする機会があって、その時に
「もっとアカデミズムの側も発言してください」とお願いしておいた。
その甲斐あってかどうかは知らないが、とにかく今回のコメントはありがたい。
年末の大竹先生もそうだが、やはり風向きは変わりつつある。

大まかに整理すると、今日の正規と非正規の格差の根源は日本型雇用自身にあり、
格差是正には正社員の規制緩和しかないという点。そして規制強化は失業率の
上昇にしかならないという点では、経済学者の意見はほぼ一致している(マル経除く)
これは新自由主義だとか市場原理主義とかいったレベルの話ではなく、
あのモリタクにしたって、正社員の賃下げが必要なことは認めているのだ。

では、なぜそういったスタンスがなかなか広まらなかったのか。
それは、そういった意見を公にした学者へかなりのバッシングがされたことで、
言いにくい空気が出来てしまったことによる。
特に八代さんへのそれは常軌を逸していて、自民の加藤紘一などは
「八代さんのせいで犯罪がおきた」などと発言したほど。
そういう意味では、一貫して同様の論を主張し続けている池田先生などには
頭が下がる思いだ。

若年層全体はもちろん、特に30代半ばにさしかかった団塊ジュニアは、
こういったメッセージを真摯に受け止めるべきだろう。

月刊Voice 4月号


『労働組合不要論』寄稿。

最近気づいたのだが、規制緩和を主張すると、たいてい趣旨に賛同は得られる。
ロジックで語られれば、普通の人ならメリットを理解できるから。
ただし、そうはいっても
「経営者の思う壺で、みんな揃ってワーキングプアになるのではないか?」
という不安を述べる人が多いのも事実。

今回の論は、そんな心配いらないよというテーマが中心だ。
結構、見る人によっては衝撃的な内容かもしれない。
特に労組の人なんか(笑)

法学と経済学

先週のダイヤにちょっと興味深い記事。
製造業派遣の再規制について、再規制にのりのりの厚労省にストップをかけたのは
経産省とのこと。
要するに
「派遣さんかわいそう。だから派遣なんてこの世から無くしてしまえばいいのよ!」
という夢見る乙女チックな厚労省と
「おいおい雇用減らしてどうするよ」という大人な経産省という構図。
政権交代したら「労働再規制」なんてお馬鹿なことやらかしそうで心配していたが
経産省が睨みを利かせてくれているようなので一安心か。

興味深いのは、厚労省と経産省、両者の価値観の違いだ。
前者は基本的に法をベースに白黒つけようとし、規制で管轄分野をコントロールする
ことを目指す。この不況時に、労働規制を強化しようとする姿勢が典型だ。
一方の経産省は生ものの実体経済を相手にしているだけに、より柔軟で自由主義的な
価値観を持っている(まあ霞ヶ関の中では、という意味で)。
こっちのベースは経済学だ。

この「法学vs経済学」という対立構図は、雇用に限らず以前から存在するもので、
最近だと貸し金業者の規制問題が有名だ。
雇用に関する論点の違いは、このあたりの本に詳しいが、こういうのを読むと
両者の違いはもはや遺伝子レベルと言っていい。

どちらが良い悪いというのは一概に言えるものではないが、法学というのは
(当たり前の話だが)保守が信条なので、変革期にはどうしても対症療法の連発に
陥りがちだ。そして多くの場合、それはより状況を悪化させることになる。
昭和と言う時代が終わり、輸出型というビジネスモデルも終わりそうな今、柔軟な
商売の視点が必要だと思うのは僕だけだろうか。
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若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
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城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
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