雇用大崩壊

雇用大崩壊―失業率10%時代の到来 (生活人新書)
田中 秀臣
日本放送出版協会

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自分が参加しといてなんではあるが、こっちの方が良くまとまっている。

タイトルには雇用が入っているが、過半を経済政策が占める。
その理由は後半明らかになる。
著者の一番の雇用対策は、ズバリ経済成長そのものだからだ。
だからまずデフレを退治しろ、そしてそのためには…と続くわけだ。

経済政策部分についてはここでは触れないが、雇用については若干、僕とは意見が違う。
確かに、好況で新たにフリーターに進む人間が減ったのも、正社員の椅子自体が増えたのも
事実ではある。もっともっと好況に持ち込めれば、もっともっと椅子は増えるのだろう。

ただ、人事的な視点から言わせて貰うと、
それでもやはり一度でも非正規雇用の道に進んだ人間は、
正社員としては採られないと思う。

成長率が80年代のように5%近くにまで達しても、国がいくら再就職訓練にお金をつぎ込んでも
少なくとも組織化された労組があって賃金表が作成されていて毎年労使交渉やっているような
会社なら、採用はしないと思う。

そういうことのない中小企業であれば、熱意さえあればいくらでも正社員にはなれる。
ただ、それが氷河期世代全体への救済かと言われれば、僕は違うと思う。

そしてとても肝心なこと。
経済成長のためにこそ、むしろ流動化は必要であるという現実だ。
企業内で流動化を進め、一定の新陳代謝を促すことなしに、新しいビジネスモデル
も製品も出てはこない。現状の枠組みで追求できるものは、より安い部品を台湾から
買いましょうとか、もっと派遣社員を増やしましょうとか、その手のコストカット作戦だけ。
それはイノベーションではなく、中国人やインド人とガチンコで殴りあう道である。
中川秀直氏にしても正社員既得権の見直しは認めているのだから、上げ潮の論理と矛盾
するものでもないはずだ。

と、いう点で違和感は残るが、「労働再規制は状況を悪化させるだけ」など、
まっとうな意見も多く、けして変な本ではない。一本道で読みやすいし。
こういう考え方もあるという理解のためにも一読の価値はある。

裸の方がまだ…

思わず笑ってしまったニュース。

コレは鳩山さん的には許せるのだろうか?

確かに並んでるところを見ると、不思議と違和感がないけれど。
なんというか、すごくお役所仕事って感じだ。

書評@週刊現代



週刊現代に新刊の1p書評が掲載されている。
ダイヤはわかるが、現代とはちょっとびっくり。

新書と違い、経済系出版社の単行本は数が出るものではないので
普通、あまり一般誌には取り上げられない。
それだけキーワードの一つである“閉塞感”が広く共有されているということかも。

雇用崩壊

雇用崩壊 (アスキー新書)

アスキー・メディアワークス

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すっかり忘れていた。
雇用に関するオムニバス本の紹介。
7人の論者が参加し自論を展開、僕も二番手に登場する。

はっきりいうと、僕はこの手のオムニバス形式が好きではない。
全体の方向性に従って論が選ばれ、さらに一定のリンクが保たれているのなら良いが
たいてい各々が好き勝手に自論を並べるだけなので、本としての統一性に欠けるのだ。
そもそも、「幅広い意見を収録する」という意味が全く理解できない。
ラーメン特集やるならともかく、政策については正論は一つのみ。
あとは阿呆かまがい物であるのだから、企画段階で切り捨てるべきだ。

もし「有名人をいっぱい並べておけば売れるだろう」という発想なのであれば、それは
作り手の怠慢である。

というわけで最初はお断りしたのだが、出なきゃ出ないでマル経崩れのオンパレードに
なっても困るので、インタビュー形式で出させていただいた。
(もっとも八代先生が登場してびしっと締められているので杞憂だったが)
語っている内容はごく一般論なので、ブログや新刊を読んでいるという人には退屈かも。
まあお暇でしたらということで。

少し内容も紹介しておくと、まず前半三人は読む価値がある。後半は典型的な
「大変だ~大変だ~」論でしかないのでいまひとつ。
そういうものすべてに価値が無いとは言わないが、もうそれを言う段階はとっくに
過ぎていて、今は対策を議論している最中だ。ちょっと時期を逸しているのではないか。

まあそれでも初見の人もいるだろうからルポ的な価値はあるとしても。
小林美希の正社員擁護論はちょっと見過ごせない。
たとえば、「介護業務は正社員でもこんなに大変です、だから正社員はもっと
保護しましょうね」と言われて、どれほどの人が納得するだろうか?
介護の賃金が低いのは構造的な問題であり、雇用規制とは無関係だ。
そもそも、なぜ日本全国から介護を引っ張り出してまな板に載せるのか。
まずは自分が飯を食っているメディアを取り上げて
「新聞記者もこんなに大変です」と言ってみろといいたい。


はっきり言うが、一部のメディアは雇用の流動化論に対して強いアレルギーを持っている。
そういうメディアにとって、いまどき正社員擁護論をぶってくれるフリージャーナリストは
貴重な存在だ。その立ち位置を狙っているのなら、“ジャーナリスト”などという肩書きは
とっとと外すといい。

なぜ若者は裸になるのか


草なぎ君のニュースを見ていて、ふと全然関係ない話を思い出してしまった。
終身雇用と裸の関係だ。

日本企業には、裸を美徳とする文化というのがあって、この手の話は割と聞く。
僕自身、二回ほど現場に遭遇している。
一応言っておくが、富士通ではない。メーカーは総じて草食系なので、そういうことは
あまりしない。営業がメインの流通系、派手さが売りのメディア系などに多い気がする。

最近だと5年くらい前、バーのボックスで尻出してるヤツがいて、マスターに聞いたら
「○○商事の新人さんみたいです」と言っていたっけ。
一生懸命勉強して一流校に入り、厳しい就職戦線も勝ち抜いた挙句
部の歓迎会で象さんのペイントをして踊るなんて、なんというかすごく儚い。

象さんは極端なケースだが、似たような話はいくらでもある。
タバスコ一気飲みとか、ソックスでろ過したビール飲ませたりとか。

当然だが、対象となるのは男性の総合職だけだ。
思うに、これは余興と言うより共同体への加入儀式の一環なのだろう。
これからおまえは同じ船のメンバーだ、だから誠意を見せろ、痛みに耐えろ、羞恥にも
耐えろという具合に。
そう考えると、女性が対象に含まれないのも理解できる。
年功序列組織において、女性は準構成員の地位しか与えられないのだ。

ところで、90年代と比べると、この手の話はとんと聞かなくなったので
戦々恐々としている男子学生諸君は安心してもらって構わない。
少なくとも若年層においては一定の流動化が進み、組織と労働者は徒弟関係ではなく
対等の交渉相手という仲に近づいている。儀式を課されることは、多分もう無いだろう。
流動化で待遇が向上する好例である。

最近、親同伴で内定式を行なう企業が話題になり、「新人が幼稚になった」なんて
声も聞く。少子化だし、確かにそういう面もあるかもしれない。
でも、いい年した大人が象さんやったり、タバスコ飲んでゲホゲホやっている方が
とても幼稚だと思うので、個人的には今のほうがいい時代だなと感じている。


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城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
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