高卒と大卒が同じ給料でスタートすると何がどうなるの?と思ったときに読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。

JR東日本が「大卒と専門学校、高校卒者を同じ処遇で採用する」というニュースが話題となっています。



【参考リンク】JR東日本、高卒・専門卒も総合職に 学歴で差をつけず


「学歴で差をつけるなんて時代遅れだ」と歓迎する人も多いですが、「それじゃ優秀な大卒以上の人材は集まらないだろう」と現実的な目線で見る人も少なくないようです。

確かに筆者の感覚でいうと「経営陣が東大卒ばっかりで東大大好きな会社」と「学歴関係なしの実力主義の会社」があったら、前者に行く東大生は少なくない気がしますね(苦笑)

なぜJR東は学歴ごとの処遇を見直すんでしょうか。そもそも学歴にはどういう意味があるんでしょうか。いい機会なのでまとめておきましょう。


学歴とは、より高賃金で重要な仕事を任されるレールへの乗車チケットのようなもの


従来、一般的な日本企業では、大卒や専門、短大、高校卒といった最終学歴ごとに初任給が設定されていました。

たとえば、

博士課程修了   :27万円
修士卒      :24万円
学卒       :22万円
短大・専門卒学校卒:20万円
高校卒      :18万円

みたいな感じです。

入社後はそれぞれの初任給から、毎年すこしづつ昇給していくことになります。

まあその先は各企業ごとに色々制度も異なりますし、人によってメチャクチャ優秀な高卒者や、ぜんぜんお話にならない大卒者も普通に出てくるので逆転するケースもあるんですが、少なくとも従来は全体で平均すれば賃金カーブの差は歴然とついていましたね。



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【参考リンク】学歴別の月収(2008年)



なんて書くとやっぱり大卒は優秀なんだな!と思う人もいるかもしれませんが、ここで重要になってくるのが「評価制度」と「コース別採用」です。

日本企業で働いている人ならみんなわかると思いますが、賞与や昇給の査定なんてどこのJTCでも結構いい加減なものですよね。

これまでも何度か言及しているように、多くの会社では人事部が設定した分布に基づいて管理職が評価をばらまき、人事部が決めた基準で賞与や昇給額を決めているだけです。

具体的に言えば「30歳大卒なら昇給はこのレンジで、高卒ならそれより低くてこのくらいで」みたいな感じです。

つまり、個人差はあれど、学歴ごとの賃金カーブの差というのは、そのほとんどが人事部があらかじめ敷いたレールということになります。

そしてもう一つの重要な要素であるコース別採用ですが、それにより各人は事前に与えられる仕事が大まかに決定されることになります。

一般的にいうと、付加価値の高い基幹業務を担い、幹部候補として全国転勤や残業もばりばりこなす総合職、現場業務中心で転勤や異動の限定的な地域採用職(企業によっては事務一般をこなす一般職も)などがあります。

これらのコースはほぼそのまま学歴で振り分けられます。大卒以上は総合職、それ以外は地域採用や一般職といった具合ですね。

つまり、学歴によっては入れるコースが異なり、コースによって与えられる仕事が違うということになります。

そう考えると、先の図の印象も随分変わってくるのではないでしょうか。

「学歴はお金を生み出す武器」というよりは「学歴はより高収入の保証されたレールに乗るための乗車券」と言うべきでしょうね。

でそのチケットによって「お前は高卒だから給料はこのくらいで、ピーク時もこんなもんでいいだろう」みたいに決め打ちされるわけですよ。

「そんなステレオタイプで人の人生を限定するな!」と怒る人もいるでしょうが、年功序列制度というのはそういうものなんですね。文句がある人は年功序列制度(とそれに基づいた終身雇用制度)に言いましょう。

余談ですが、最近一部の政治家が「大学の無償化」を看板政策として掲げています。





たぶんそういう政治家って、冒頭で出した賃金カーブをイメージし、大卒者を増やせば高賃金の人が増える→経済成長だ!って短絡的に考えてるんでしょうね。

でも上記のロジックからすれば「高賃金のレールの座席数自体は変わらない中で、単に乗車チケットだけが乱発される」という状況になるだけです。

経済成長どころか、大卒チケットは手に入れたけれども、どこにも座れない人間があぶれるだけでしょう(当然ですが高卒者用の椅子にも今さら座れないはず)。

これと言って何のとりえもない文系事務職希望が増えるだけで、建設業や運輸、介護といった業界の人手不足はさらに悪化するんじゃないでしょうか。





以降、
ジョブ型と学歴別コース別採用は水と油
JRが学生に発しているメッセージは、すべてのビジネスパーソンにとっても肝に銘じるべき








※詳細はメルマガにて(夜間飛行)







Q:「ホワイトカラー>エッセンシャルワーカーの価値観はどうやったら変えられますか?」
→A:「10年以内にガラッと変わる気がしています」



Q:「転勤制度はジョブ型移行でどう変わるんでしょうか?」
→A:「転勤制度とジョブ型は本来両立しないはずですが……」




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財務省解体デモやってる人達ってバカなの?と思ったときに読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。
先日、SNSで“財務省解体デモ”なるものが話題となりました。

「は?」って思った人が大半でしょうけど、やってる本人達はいたって本気の様子。

はたして財務省をやっつけたとして、それで問題が解決するんでしょうか。というか、そもそも彼らは何を求めてるんでしょうか。

一見するとしょうもないことしてるように見えても、その行動原理をひもとくと意外な事実に気づかされることもあるものです。

いい機会なのでまとめておきましょう。


財務省を目の敵にする人たちの本音


まず彼らのロジックですが「財務省が緊縮財政するもんだから日本がこんなに貧しくなった」というものです。

ちなみに財源については「自国通貨はいくら刷っても大丈夫」とか「バラマキで経済成長するからOK」「まず減税させれば税収増えるから心配ない」とか、MMT、元祖バラマキ派、減税派などごった煮状態ですね。

まあアホという点では大差ないですけど。

まず世界最大の債務残高を抱える日本が緊縮財政の対極にいるという点で異論のある人はまずいないでしょう。

くわえて財務省というのは国の決めた事業を維持できるように歳出歳入をチェックする組織でしかありません。

たくさん税金取られて生きていけない!というのなら、それはそれだけのお金を使い込んでいる国民の側に問題があることになります。

だからまず国民の側で「歳出が多すぎるから○○を減らせ」と合意形成して選挙を通じて政治に反映させるしかありません。

そういうの一切無視していきなり財務省に「おまえが金を使うのを見直させろ」「税金取るのやめろ」というのは、極論すれば炊飯器に向かって「米が値上がりしてるから使う量を減らせ」と説教してるようなもんです。

想像してみてください。近所に毎週末、炊飯器に向かって「最近米が高すぎる!米の使用量を減らせ!」って怒鳴ってる一家がいたらどうします?

「うわこいつらヤバいな」って目が合わないように避けるでしょ?財務省解体デモやってる人は一般人からそういう目で見られてるって自覚した方がいいです。

ちなみに減らすべきなのは社会保障一択で議論の余地はありません。

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ただし。

じゃあ上記デモの参加者が揃いも揃ってみんなバカかというと、筆者はそれも違うと考えています。

というのも、少なくとも上記デモの黒幕の一角と思われるれいわ自身が「税金は不要」なんてまったく考えていないからです。

最近の政策を見ると「自国通貨なんだからいくら刷っても大丈夫」なんて言ってなくて、実は大増税路線に舵を切っているのがよくわかります。

以下、現在のれいわの税制に関する政策の抜粋ですが、消費税廃止を掲げる一方で、増税に関するラインナップはこんなにあります。※

実はれいわ自身が「税は財源ではない」なんて1ミリも信じてないのは明らかでしょう。


・法人税を引き上げ、累進課税を導入する
・所得税の累進を強化する
・金融所得課税は、株の配当や譲渡益を分離課税とする現行制度を見直し、総合課税を検討する
・大企業の自社株買いに課税し、株価ではなく企業の利益を従業員に分配するように動機付ける
・タックスヘイブンを利用した日本の大企業の租税回避を規制し、公平で公正な負担を求める
・財産相続によって格差が固定されないよう、是正方法を検討する
・不況期には高額資産への資産課税を実施することで、富裕層の支出を促す
・国際的な金融取引に対する課税や金融資産課税の導入を検討し、タックスヘイブン、課税逃れへの取り締まりを国際協力のもとで強化する
・炭素などの温室効果ガスや汚染物質の排出に課税し、排出削減を促すことで健康や環境への被害をなくす
・インフレ抑制が必要な場合は、優先度の低い設備投資への課税を検討する
・円安など為替の変動による企業の棚ぼた利益に課税を検討する(ウインド・フォール税)
・雇用を海外移転する企業への税控除廃止と国内回帰する企業への税控除を導入する。日本企業の海外収益への課税を強化する
・将来的に介護保険制度は廃止し、累進性を組み込んだ税方式にすることを検討する






で、ここからが重要なんですが、れいわがいうところの増税というのは、そのほとんどが企業とそこで働く人間に集中してる点です。ちなみに、法人税は実際にはそのほとんどが従業員の賃金に転嫁されるため、法人の課税強化=サラリーマンの負担増と考えて問題ないです。

要するに「消費税は廃止しろ。足りない分は企業とサラリーマンに負担させろ」というのが彼られいわの主張ですね。

そう考えると、上記デモの見方がずいぶんと違ってくるはず。

「自国通貨はいくらでも刷れる」なんて本気で考えているMMT支持者なんて恐らく3割もいないと思いますね。

れいわ支持層以外は、そのほとんどが「全部分かった上で参加している自営業か無職」でしょう。

彼らに共通するのは「とにかく消費税だけは逃げられないので廃止してほしい。足りない分はサラリーマンから天引きしろ。昔はそれでやってたんだから昔に戻せ」ということでしょう。

なんでこのタイミングで盛り上がってるのかというと、やはり所得税減税議論の影響でしょう。

賛否はありますが、あれで所得税の減税が実現してしまうと、消費税を下げる余力はもう日本社会からは完全に消滅してしまいますから。

「税こそが財源であり、消費税を下げるには法人税や所得税等を上げないといけない。逆に言えば先に所得税を下げられてしまえば消費税を下げることはもう不可能」ということは、れいわ界隈の人間はよくわかっていて、だから焦っているんでしょう。

あとは、少なからぬサラリーマンが社会保険料負担の重さに覚醒し、社会保険料の引き下げと消費税による置き換えが選択肢の一つとしてクローズアップされていることも影響しているはず。



年金保険料を消費税に置き換えるのはサラリーマンにとっては負担減ですが、もともと保険料なんて払ってない連中にとっては単なる消費税増ですからね(苦笑)

そうした状況に危機感を持つ人たちが集い、財務省解体を叫んでいると考えれば、バカどころか相当に狡猾でしょう(まあサラリーマンで上記デモに参加してました、という人は真正のバカでしょうけど)。

だって財務省を解体しちゃえば、まあ消費税廃止は厳しいかもしれないですが少なくとも消費税を引き上げようという圧力は消滅するでしょう。

どさくさにまぎれて半分の5%くらいにでも出来れば、彼らはまたあのほとんど税負担無しでほぼすべてのインフラを享受できた夢のような時代に戻れますから。

所得税は自分で確定申告している人は色々調整出来て抑えられるし国民年金は月16,980円の定額です(それすら未納の人も少なくはない)。

消費税さえやっつけられれば界隈の人たちにとっては夢のような美味しい暮らしが待っているのです(サラリーマンには地獄の日々でしょうが)。

そう考えると、ああしたデモは単なるバカの一言では片づけられないですね。


※れいわは一応社会保険料の引き下げも口にしていますが政策集をよく見ると「国民健康保険料や介護保険料などの社会保険料を国庫負担で引き下げる」となっているので高齢者や無職が対象であり、サラリーマンは対象外と思われます。




以降、
財務省を潰したら何が起こるか
減税議論が迷走するワケ







※詳細はメルマガにて(夜間飛行)







Q:「中途採用で感じた違和感の正体は?」
→A:「最初に感じた違和感は意外と大事だったりします」



Q:「Z世代は本当にワークライフバランス重視?」
→A:「人によりますが、大切なのは人事制度に見合った人材の採用です」




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初任給30万円時代到来で氷河期世代って負け組なの?と思ったときに読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。
大手企業による2026年卒業予定者に対する初任給引き上げが続いています。相場は30万円台が中心で、中には40万円以上もありますね。

幅広い業種で行われているため、もはや社会現象と言ってもいいでしょう。



【参考リンク】ソニーグループ 大卒初任給を31万円余に引き上げ



【参考リンク】三井住友銀、初任給30万円 来春から 他業種と人材争奪



【参考リンク】オープンハウス、初任給36万円に引き上げ=若手獲得へ競争力強化



【参考リンク】この10年で「初任給をグンと引き上げた」TOP50社




バブル前から30年以上上がらなかった初任給が大きく跳ねた意味とは。そして、安い初任給で過酷なサバイバルレースを強いられた就職氷河期世代は、このまま「あーあの可哀そうな人達ね(苦笑)」って流されて終わりなんでしょうか。

いい機会なのでまとめておきましょう。


日本企業が初任給を引き上げざるを得ないわけ


大手各社が初任給を挙げざるを得ない理由は、以下の3点です。


1.学生はもはや誰も年功序列・終身雇用を信じてはいないから

これは過去にも言いましたが、もう十年以上前から若者の年功序列・終身雇用制度への不信は始まっています。

具体的に言うと、ずっとコツコツ働いていれば将来は出世も昇給も出来るというのが年功序列制度、そして定年まで確実に雇用が保証されるというのが終身雇用制度です。

それが実際はそうじゃないだろうとバレちゃってるんですね。

なんでバレちゃったかというと、そりゃあれだけリストラだの早期退職募集だのやって、社内もいい年してヒラの中高年で溢れてたらバカでもわかるでしょ(苦笑)

十年前はまだ一部の勘のいい人たちだけでしたが、今はもう普通の大学生もみんな理解しちゃってますね。

年功序列や終身雇用を信じられないなら、誰も激安の初任給からスタートなんてしたくないでしょう。だったら、企業側は初任給を底上げするしかありません。

と言うと決まって「でもうちは今も変わらず90年代と同じ初任給のままだけど、ちゃんと新人は採れてるよ」みたいなことを言う人もいます。

そういう会社の人に聞きたいんですけど、たぶん最近入社してきた新人は「出世とか興味ないです」「残業も転勤もしたくありません」「ワークライフバランス重視してます」みたいな人ばっかりじゃないですか?

そう、彼らはやはり年功序列も終身雇用も信じてはいないんですよ。信じてないから(それと引き換えの)滅私奉公を最初から避けてるわけです。だって割りに合わないから。

貰った時給分だけの仕事はするけど、それ以上はやりません的な、学生時代にバイトする感覚と同じなんです。

それじゃ仕事が回らないって?だったら初任給も年功序列もスクラップするしかないでしょう。そしてそれは会社側のミッションです。

「最近の新人は~」とか愚痴ってる暇があったら、社内で消化試合モードやってる中高年が目の色を変えて働き始めるような人事制度に切り替えましょう。


2.新人の数が少ないから

一学年の人数が200万人を超えていた団塊ジュニア世代と違い、2010年以降に世に出た世代は一学年120万人切ってますからね。

年功序列制度というのは、言い換えるなら年齢で人を判別するということです。他の世代と比べて慢性的に数の少ない彼ら若手には、常に強い賃上げ圧力が加わることになります。

逆に言うと氷河期世代には(以下自粛)


3.企業自身も、もはや年功序列・終身雇用を信じてはいないから

実は筆者はこれが決定的だと感じています。

別に新人がどう思っていようが数が少なかろうが、企業サイドが昔のように「年功序列でびしっと育て上げられた人間以外は人間にあらず!」っていうスタンスだったら問題ないんですよ。

氷河期の時みたく「新卒でマトモな企業から内定採れなかった奴はダメ、3年未満で離職した奴はダメ、非正規雇用しか経験してない奴もダメ、ダメな奴は何をやってもダメ」っていうスタンスで足並み揃えとけば、ガキが何言おうが新卒一括採用という仕組みそのものは微動だにしないはずなんですね。

でも、今は企業自身が年功序列や終身雇用に強い疑問を抱いています。いや、疑問っていうほど生易しいものではなく、憎悪に近い感情を抱いている偉い人はいっぱいいると思います。

だって、それらを通じて現に生み出されたのが、年収数年分の割増退職金を積んででも頼むから辞めてもらいたいレベルの人材なわけで。



【参考リンク】第一生命HD、希望退職1000人募集 50歳以上が対象


若手も企業も制度を信頼できていない状況で、どこか一社が抜け駆け的に制度見直しに動けばどうなるか。

そして、若手が一度抜けてしまうと、その抜けた穴を補充できるほどの人材が、少子化のせいでそもそも市場に存在しないとしたら。

その結果が、今起きている初任給引き上げのドミノ倒しなんじゃないでしょうか。





以降、
初任給だけ上げて他は無視、というわけにはいかないわけ
氷河期世代は敗れたのか






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Q:「中学受験より英語の早期教育の方が効果的では?」
→A:「筆者も同感ですが、留意すべき点もあります」



Q:「フジテレビ問題をどう見ます?」
→A:「筆者の知る限り……」





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Uberって労組もないのにどうして会社とガチンコで交渉出来てるの?と思ったときに読む話

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最近、Uber Eatsの遅配やキャンセルといったトラブル多発が話題となっています。



【参考リンク】Uber Eatsで年末年始に配送遅延などのトラブル 配達員の報酬は「下げていない」とUber Japan


Uber側は「年末年始の一時的な需要増によるものだ」と報酬引き下げを否定していますが、実際のデリバリースタッフの声を見るに、なにがしかの引き下げはあったようですね。



【参考リンク】Uber Eatsの配達員の単価が下がり注文してもなかなか届かない事態になっているらしい「19時→19時半→20時と到着が延びた挙句、勝手にキャンセルされた」


これらは事実上のストであり、彼らのネット上のコミュニティはそこらの企業内労組よりよっぽど労組として仕事してるという意見もあります。筆者も同感ですね。





なぜ、Uber Eatsの従業員たちは、正式な労組もないのに会社とガチンコで交渉出来ているんでしょうか。

そして、なぜ同じことを日本企業の労働組合は出来ないまま、会社にやりたい放題されているんでしょうか。

いい機会なのでまとめておきましょう。


労働者にとって“最強の武器”とは何か


Uberのスタッフが会社とガチンコで交渉できる理由は、以下の3点です。


・いつでも競合に転職できるから

フードデリバリーサービスはUber以外にも、出前館やmenuといった企業がしのぎを削っています。
「割に合わない」と思えば、無理にUberに固執する理由はないんですね。

これは労働者にとって非常に大きな武器だと言えます。


 ・経営なんてどうでもいいから

恐らくUber側にはスタッフの報酬を抑制しないといけない事情があるんでしょう。20年後を見据えてもっと設備投資しないといけなかったり、米国本社からもっと利益を上げろと尻を叩かれたり。

でも一労働者からすればそんなことは本来どうでもいい話ですね。そんなことより自分は今すぐこれだけ必要なんだから払うのか払わないのかはっきりしろというのが、本来の労働者の感覚だと思いますね。


 ・プロフェッショナルだから

そして、もっとも心強い点は彼らがプロフェッショナルだからです。

なんて書くと「大げさな」と思う人もいるかもですが、筆者の考えるプロの定義は「自分のスキルを理解し、それを磨く努力をし、安売りはしない人たち」のことです。

プロ野球選手とかゴルゴ13みたいな人たち限定ではなくて、どんな職種にも存在しえるものです。

完全実力主義でデリバリーという業務に特化し、「割に合わない仕事は受けない」というスタンスの彼らは間違いなくプロフェッショナルでしょう。

これらを総合したものが「労働市場の流動性」と言われるものの本質でしょう。そしてその流動性こそが労働者の最強の武器だというのが筆者のスタンスです。

一方で、全く逆のアプローチで処遇の底上げを勝ち取ろうとしたのが我らが日本企業ですね。そしてそのアプローチとは終身雇用制度です。

「定年まで雇わせて、原則賃下げも認めない」というのを規制で実現させようとしたわけです。結果、何が起こったか。

・新卒一括採用という入り口一発勝負
・労使協調なのでヒラ社員が会社の20年後を心配
・プロじゃなく“メンバー”


ここ15年くらいで大手にも中途採用が広まりましたけど、それまでは事実上の新卒一括採用のみ、新卒でコケたりすぐに辞めちゃうと元のレールには戻れない時代でした。

また、日本企業では、株売ったらサヨナラの株主や数年で退任する経営陣よりも、実は労組が長い目で経営を考えています。だって定年まで何十年もお世話になるから。

だから日本企業の労組って絶対にストなんてやらないし無理な賃上げも要求しないんです。あくまでも「経営に差し障らない程度に」慎ましくリクエストするだけですね。

そしてメンバーシップ制なので業務を確定させないまま入社し、会社から与えられる仕事をなんでもこなすゼネラリストは、言うまでもなくプロフェッショナルとは異質なものです(その会社内の人間関係とか社史とかの“プロ”ではあるんでしょうけど)。

中途採用やってる会社は今ならいくらでもあるけど「自分は今の会社のことしかわからないから転職できない」という人は多いでしょう。それはその人がプロではなくメンバーだからです。

さて、そうやって流動性という武器を捨て、終身雇用という一種の規制で守ってもらおうとした結果、望むものは手に入ったんでしょうか。

「失われた30年」なんて言われている点を鑑みるに、ほとんどの人にとって“終身雇用”という武器は期待していたほどの御利益はなかったんじゃないですかね。





以降、
今の場所にとどまり続けるには人も企業も走り続けるしかない
ジョブ化と交渉は切っても切れない関係







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Q:「40代ですが急に引き合いが増えて驚いています」
→A:「企業が年功序列という夢からさめただけでしょう」



Q:「管理職昇進の基準というのはどういうものが一般的なんでしょうか?」
→A:「一番重要なのは事業部内の評価でしょう」






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なぜ日本では年齢差別や男女間の賃金格差が普通に存在するの?と思ったときに読む話

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リクルートワークス研究所が発行しているワークスレポートというレポートがあります。



その昨年末に出されたものがなかなか興味深い内容だったので紹介しておきましょう。特集テーマはずばり「日本型雇用の問題は何か」

日本企業は今まで人材に対して何を求めてきたのか。そしてこれからは何を目指すのか。新年の最初に相応しいテーマだと思いますね。


国際比較で日本型雇用の真の姿が明らかに


多くの人はなんとなく「日本は一回レールから外れてしまうと挽回しづらい国だな」と感じているんじゃないでしょうか。

他にも「男女間の処遇には歴然とした格差が存在する」ことや「やる気のない人、受け身の人が多い」ということにも薄々気づいている人は少なくないはず。

本レポートは様々な国際比較を通じて、それらの直感が単なる思い込みではなく、歴然とした事実として日本企業に存在していることが示されます。

※オリジナルはこちらからダウンロード可能です。


ではなぜそうなっているのか。筆者がメカニズムについて解説しておきましょう。まずは挽回しづらい国である理由について。

氷河期世代には実際に経験した人も多いでしょうが、日本では新卒一括採用が一般的なので、そこで就職のタイミングを逸してしまうと、もう新卒採用のエントリーは認められません。

「あ、既卒の方ですね、では中途採用の方にエントリーしてください」みたいに流されるはず。

といって中途採用で内定まで行けるかというとそれもまず無理です。だって正社員の職歴が無いから。

要は、ちゃんとした会社の正社員になりたかったら新卒のタイミングで内定を取るしかないということです。

それが出来なかったら中小企業の中でも万年人手不足の会社とか、正社員の弾除け用の有期雇用に行って糊口を凌ぐしかないということです。

「中小企業でも非正規でも職があるならいいだろう」という人もいるんでしょうが、その結果、わが日本国は世界的に見て「転職回数が多い人ほど年収が低くなる」という異様な社会となっています。

と書くと「日本は転職すると給料が下がるのか。何があってもしがみつくのが正解だ」と勘違いする人もいそうですが、これは新卒段階で終身雇用を前提とした会社に入れるか、そうでない会社、働き方に進むかの差ですね。

要は、新卒時にコケた影響はその後ずっと尾を引くことになるということです。

企業がそういう線引きをする理由ですが、単純に年功序列だからです。年功序列のモノサシだと、人は新卒で正社員になり、年齢とともに正社員の職歴を積んでいるべきなんですね。

それが出来ていない人間に、年功賃金は払えませんから。

本レポートでは男女間の賃金格差についても一章を使って取り上げています。

日本の男女間の賃金格差が大きいという話は割と有名ですね。でもそれは就いている仕事や業種が違うからだ、といった反論もあります。

本レポートでは業種や学歴などの諸条件をそろえると他国の場合は男女間の格差が縮小する一方、日本にはなお厳然とした格差が残ることが示されています。

これもやはり年功序列のモノサシが理由ですね。男性と同じ勤続年数であっても、ライフタイムイベントの多い女性の場合は同じ職歴が積めていない可能性があり、その差が昇給や昇進に長く影響するためです。

氷河期世代の中には「自分たちだけに苦労させやがって」と憤っている人は少なくないでしょう。また女性の中にも「日本企業は男が支配している」と怒っている人もいるはず。

でも、特定の組織や誰かを悪の黒幕認定するよりも、上記のような日本型雇用そのものが持っている構造的課題に目を向ける方がずっと生産的な気がしますね。





以降、
なぜ80年代までは上手くいっていたのか
なぜ、表紙はブランクについてのグラフなのか






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Q:「副業が順調なので独立するのはアリでしょうか?」
→A:「全然アリですが、意外な伏兵も……」



Q:「Z世代の新人が何考えているのか全く分かりません」
→A:「みんなで豊かになろう!という幻想が消えた後に残るのは……」






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「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話


若者を殺すのは誰か?


7割は課長にさえなれません


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たった1%の賃下げが99%を幸せにする


3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代


若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
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城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
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