ふと気が付けば「アマゾン無しでは生活できない」状態になっている人は少なくないのではないか。何を隠そう筆者もその一人で、買い物の半分以上はアマゾンだしテレビ視聴時間のうちの8割くらいはアマゾンプライム(かプライム経由のネットフリックス)だ。

でも、きっと多くの人はぼんやりとした疑問も抱いているに違いない。
「アマゾンっていったいどこがどうすごいの?アマゾンはこれから社会をどう変えていくの?」

その疑問に一直線に切り込むのが本書である。

時価総額では世界2位のアマゾンだが、その割に純利益は多くはない。たとえばトヨタが200億ドル以上の純利益を出しているのに比べ、せいぜい20億ドル前後だ。理由は単純に年4000億~1兆円レベルの設備投資をせっせと続けているためだ。

なぜそれほど巨額の投資が可能なのか。謎を解くカギとなるのが「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」だという。これは仕入れた商品を販売し、現金化されるまでの日数だ。

たとえば出版社は卸に納品して現金化されるまでだいたい半年かかるため、出版社のCCCは180日となる。だからその間は借金でもなんでもして運転資金をまかなわないといけない。要するにCCCというのはお金に苦労する期間ということになる。

一方のアマゾンはこのCCCがマイナス28.5日となっている。どこの小売業にもある「お金に苦労する期間」がぜんぜんなく、むしろ「お金を自由にできる期間」が30日間もある、ということになる。これが巨額の投資のエンジンだ。

では、その30日を生み出す秘密とは何か。それはアマゾンが小売業者に開放しているマーケットプレイスにあるという。マーケットプレイスの商品が売れた時点で同社は売り上げを手にするが、出品業者に手数料を引いた売り上げを支払う期限をスケールメリットを生かしてかなり先に設定していると予想される。これが「お金を自由にできる期間」の正体だ。

2013年時点での試算だが、ある米在住流通コンサルタントの仮説では、預り金でアマゾンが無利子で自由に運用できる額は19億ドルに達すると指摘している。これは支払いまでの期間を2週間と仮定して計算した場合の数字だ。
(中略)
アマゾンはマーケットプレイスを運営することで、日本円にして、常時2000億円程度の自由に扱えるキャッシュを手にしていることになる。

これはあくまでも2013年時点の推論だ。マーケットプレイスが当時より拡大を続けている現在では、この金額はさらに増えているだろう。



また、巨額の設備投資により、アマゾンは世界最大の企業向けクラウドサービス提供会社としての地位を確立している。顧客にはいまやCIAもいるというから驚きだ。売上高で見ればアマゾン全体の一割程度に過ぎないが、ほぼ全社の営業利益分を一部門で稼ぎ出しているから、何で稼いでいる会社かと言われればクラウドコンピューティングの会社ですということになる。

これからアマゾンは何を目指すのか、という点でも本書は示唆に富む内容だ。たとえば完全無人コンビニの「amazon GO」だが、本書によれば、この事業の狙いは小売店の運営よりも、その無人営業システムのパッケージ販売にあるという。

まあ末端のコンビニ事業くらいはアマゾンが自分で侵略するかもしれないが、その開発したシステムはあらゆる小売店舗に導入され、販売員という職種自体が遠からず消滅する可能性もあるだろう。

と書くと「でも万引き対策はどうするんだ!」と思う人もいるかもしれないが、アンパン一個盗んだだけでアマゾンとそのシステムを使っている店舗すべてを出禁になるリスクを犯すわけだからどう考えても割に合わない。むしろ万引き被害は減るだろう。

他にもドローンを使った無人宅配等、物流をメインとしつつ、それをとっかかりに我々の生活を一変させる可能性のある同社の戦略の一端が垣間見られることだろう。

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