“35歳”を救え~あすの日本 未来からの提言

昨夜のNHK総合『“35歳”を救え~あすの日本 未来からの提言』について。
団塊ジュニアの現実を率直に取り上げた良い企画だったように思う。
特に注目すべきは、過半数の人が、今後給料が上がることは無いだろうと実感している点。

90年代までなら、主任(係長)⇒課長⇒部長と出世していくことで基本給を上げる流れに
加えて、職級がそのままでも、昇給で緩やかに基本給の上昇が期待できた。
だから、その頃には50代でヒラでも、若手の課長以上に支給されているおじさんが多かった。

だが、もうそれはない。ほとんどの企業は30代以降での昇給を抑制しているから、
課長部長の出世魚コースに乗れなかった人(40歳あたりでは約7割に上る)は
ほとんど横ばいの給与で余生を捨扶持で飼われることになる。


別に誰が悪いわけでもない。人件費の原資が増えなくなったのだからしょうがない。
成長率が落ちるとはそういうことであり、「もう成長はいらない」なんていう意見は、
昨日のVTRに出てきたような人生を標準として受け入れろ、ということだ。

考えられる対策は
�@原資増加分の分配から原資全体の再分配にシフトする
�Aパイ自体をなんとかして増やす
の二点だが、�Aのためにも�@は必須なので、結局は雇用体系を180度、抜本的に
見直すしかない。

それやらねば、番組でも述べられていたように、企業はコスト削減のためにますます
非正規雇用比率を引き上げねばならず、非正規雇用および周辺的正社員(中小の下請け)
の待遇は、新興国のホワイトカラーレベルに収斂していくだろう。
非正規雇用比率が過半数を超えている韓国が、今のところ日本の10年後の社会像
にもっとも近いと思われる。
格差社会なんて生ぬるいものではなく、本当の階級社会の到来だ。
(ひょっとして、一部の人たちはそれを狙っているのだろうか?)

余談だが、僕の同期で大企業や新聞社に入って、格差やワープアなんて他人事とばかりに
生きてきた連中の間でも、上記のような悲観論が圧倒的だ。
もうダメだ、就職は失敗だった、毎年の海外旅行も、BMWも、子供二人を私学に
通わせることも夢のまた夢。とてもオヤジたちの世代のような暮らしは出来ない、と。

要するに、良い大学へ行って大企業に就職すれば報われるという
昭和的価値観は、 東大卒という比較的恵まれた層においても崩れ
そしてそれは将来の予測ではなく、現実となっているのだ。


特に10代20代の人は、上記の現実をおぼえておくといい。

それから最後。なかなか良い視点だったのだが、積極的雇用政策について取り上げるのなら
労働市場の流動化も触れるべきだろう。両者はセットで運用して初めて意味を持つものだ。
ちなみにイギリスは、最近まで労働時間に関する規制すらなかった“世界一規制の少ない国”だ。
(それでも過労死なんて聞いたことがない。それが起こりえるのは、終身雇用という名の檻
に入れられた奴隷だけだ)。

こういう問題は、身近なもので想像してみるとわかりやすい。
たとえば、職場の40代の人間への研修費を倍に増やすだけで、ポスト不足は解消するだろうか?
大学院への助成金を倍に増やせば、ポスドクはみんな優秀になって、教授ポストを手に
出来るのだろうか?
どちらのケースも、流動化が必須である事は明らかだ。

※再放送 
 5月17日(日)午前2時05分~3時18分(16日深夜)総合テレビ予定

VoiceWave season2 池田千尋監督

すっかり忘れていた。
先週から、VoiceWave season2が限定で再スタート中。

今回のお相手は、昨年、初の長編映画が封切られた池田千尋監督。
映画については別途レビューを書くので深くは触れないが、非常にがっしりした作品である。
鑑賞後に「監督が20代の女性」と聞いて少し驚いたのをおぼえているが、今にして思えば
そうだからこそ出来た作品かもしれない。
なんというか、アラサーにとってはタイムリーなテーマなのだ。

今回いろいろと話していて一つ気づいたことがある。
生粋のアウトサイダーというのは、自分ではそうだと自覚していないということ。
池田監督は中学から映画の世界に憧れ、高校からメガホンをとり、その目的のために
大学へ進んだ。だから受験も頑張るし、就職も(迷いはあったらしいが)ブレはしない。

「いやあ、そりゃ天然もののアウトサイダーですねえ」
「え、そうなんですか?昔からこうですけど」
といった具合で、監督の中ではすべてが完結している。

恐らく、これが本来の自然な生き方なのだろう。
そしてただしい高等教育機関の使い方なのだろう。
医学部ならどこでも良いとばかりに、北海道から琉球まで受験して回るのも、
大手であれば何でもござれとばかりに、電通からソニーまでエントリーして回るのも、
どこか非人間的と言うかモノトーンな感じがしてしまう。

もちろん、それで得られるものもあるのだけど、
確実に何かをバーターで失っていて、
それは中年以降にボディブローのように効いてくる

と、なんとなくいろいろな人を見ていて思うのだ。

ところで、映画を見ている時。「設定がものすごくリアルだ」と思っていたが
『若者はなぜ3年で辞めるのか』が参考にされていたらしい(笑)

新卒一発勝負の弊害


先日紹介したVoiceセレクト。
高橋俊介氏(慶応大)のマネジメント論に、いくつか興味深い視点が述べられている。

・人材の成長には流動性のある環境こそ重要であり、そちらに手を入れずに
「年功序列だ、 数値目標だ」とやったところで意味は無い。
・輸出主導型の産業はもう伸び代がなく、これからは工業社会向きの均質な人材よりも
 多様性のある人材が価値を持つ。

等、非常に優れた視点だ。個人的に注目したのは、六大学対象の調査で明らかになった
という、
「自分に自信がある学生ほどリスク型の就職を目指し、
自信の無い学生ほど安定志向である」
という結果。

年功序列制度とは要はその年齢層の平均賃金のことであり、平均以上の人は損で
平均以下の人材にとっては美味しい仕組みなのだから、こうなるのは当然である。
自動車や電機の採用担当者の中には「最近の学生はバカになった」と嘆く人がよくいるが
自分の会社が割に合わない会社に成り下がっただけだ。
学生は合理的な選択をしているにすぎない。

ただ、課題もある。リスクを取りたい優秀な学生(ただの自信過剰かもしれないが)
は間違いなく増えている。だが彼らのふつふつとたぎるマグマを受け入れてくれる器が
なかなか存在しないことだ。
外資はもともと椅子の数が少ない上、外銀が採用数を激減させているので
器になりきれていない。

となると起業しかないのだが、こちらは相変わらず低調だ。
理由ははっきりしている。※1
新卒カードがあまりにも重過ぎることだ。
日本において起業するということは、昭和的価値観に歓迎してもらえる唯一のパスポートを
自ら捨てることを意味する。特にエリートほどカードは重いから、優秀者ほど安定志向という
アメリカの真逆な現象が起きてしまう。
そりゃ何十年やろうがMSもグーグルも出てきませんわな。
実は個人的には、年功序列の最大のネックはここかもしれないと感じている。

氏は(まあコンサルなので当然だが)色々と社内での人材育成改革について提言してはいるが
個人的には日本企業が自主的に変わっていくのは非常に困難だと考えている。
この状況を打破するには、

�@トップダウンで一気に流動化を進め、新卒カードを無意味化する
�A新卒カードで貰えるものが激減するまで、待つ。


といったところか。
経済状況をみるに、意外に�Aの方がメジャーになるかもしれない。


※1
フォローしておくと、起業といってもゼロから会社を作るというわけではない。
数名での立ち上げに参加するか、10名程度のベンチャーに参加するという選択肢も
含めての話で、実際にはそうやって経験を積む人の方が多数派だ。
これなら、ぐっとハードルは下がるだろう。

クビ切り不要!?

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Voice編集部
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『Voice』誌の注目された論を集めた新刊に、僕の「労組不要論」も収録されているので紹介。
これもオムニバスなのではあるが、それなりに書き手を選んでいるので整合性がある。
先の本がフェーズ1で騒いでいるとすれば、この本はほぼフェーズ2でまとまり、政策に
ついて触れている。

ただタイトルの“クビ切り不要論”というところに若干無理がある。
というのも、首切りというのは雇用調整しないとやっていけない会社がやるものであって
そういう会社に「クビキリ不要ですよ」という処方箋は物理的にありえない。
無理なものをやれというと精神論しか出てこないというのは、大戦以来の日本のお家芸である。
しょっぱなの丹羽さん(伊藤忠会長)伊丹さん(東京理科大)対談はまさにそれで、結局
「絆を大切にしよう」という美しいが身の無い響きのスローガンに落ち着く。

余談だが「(雇用維持と企業存続の両立は)物理的に無理なので税金で何とかしてください」
と言っているのが今の電機だ。
50代はもろ手を挙げて賛成だろうが、それ以下の世代は近い将来、何らかの形で負担
することになるから取られ損である。これも世代間格差の生産装置だ。

だが、一番の注目は中谷巌の『北欧型「転職安心」社会』。
なんと、フレクスキュリティに言及しているではないか。
グローバル化で終身雇用は文字通りには維持できないから、流動化と再就職支援をセットで
やって労働力の移動を促進しろという論旨だ。
これはそのまま、構造改革派のいう労働ビッグバンそのものだ。
というか、僕が言っていることをオブラート5枚くらいで包むと、そうなる。
めんどくさいから包まないけど。

フォローすると、中谷氏と言う人は90年代構造改革派のブレーンの一人で、昨年
『資本主義はなぜ自壊したのか』という本を出して決別を宣言。あちこちで話題となった人だ。
本自体には特にコメントする価値は無い。米国型の構造改革はダメですね、日本は
日本の伝統に基づいた和の精神でやっていきましょうという、保守派の守旧派に見られる
論法に過ぎない。経済にしろ雇用にしろ、現状の諸問題はすべてそのご自慢の日本型
システムが破綻しかけている結果に過ぎず、それをどうするのかというビジョンは皆無だ。

彼の主張を若者視点で言えば、
君たちは我々老人を支えるために、未来なんか捨てて下支えしろ、となる。

そういう著書の出し方をしておいて、ある程度の読者リテラシーの予想される誌面では
上記のような主張をするというのは、はっきりいってずるいでしょ中谷さん。
そりゃ御本人はいろんなメディアに引っ張りだこになったろうが、その負の影響を
考えたことがあるのだろうか。
週刊金曜日からVoiceまで、彼の言説は現状維持を望む守旧派に向けて、盛大に
垂れ流されている。あと数年で逃げ切れる世代にとって、中谷氏はマルクスや田中角栄
よりもご利益のある免罪符だ。

そういえば、先週の週刊文春でも、トンデモ精神科医の香山リカが性懲りも無く
「ホリエモンが台頭する一方で、格差が拡大した」と改革批判を繰り広げ、
「中谷先生もそれを悔いてザンゲしているのよ!」とちゃっかり理論武装に使っている。
というか、なんでホリエモンが上場したら格差が拡大するのか。
若年層の格差でせっせと商売しているのは、香山リカ本人だろう。

この手の印象論でしか語れない門外漢は、具体的な事例は何一つ示せないので
説得力は皆無なのだが、中谷イズムがブレンドされることで、オバちゃんのヨタ話
も信じてしまう人がいるかもしれない。

そういう氏の二枚舌ぶりを鑑賞する上でも、有益な一冊である。
途中から脱線してしまったが、書評だけで新書一冊書けそうなくらい充実。

内定取り消し問題の本質

昨日のアクセス。なぜか時間が30分くらい延びていて、内容も面白かったので簡単にフォロー。

まず、企業が一人採用するのには一千万近いコストがかかっていて、切りたくて
切っている企業なんてありえない。だから、問題の本質は、
・もっとも低賃金の新人候補だけを切ることに、意義や意味はあるのか
・新卒至上主義の日本で、新卒時にこけると後々まで響く

という2点だ。

となると、内定取り消しだけを規制するというのは対症療法であり、それをやると
恐らく企業は
・正社員採用をきわめて優秀な人間のみに限り、後は非正規雇用にシフト
・“内定”が雇用契約化し、辞退も難しくなる

のどちらかになるはずだ(多分、両方)。

特に、内定制度というのはある意味グレーな存在だからこそ学生も助かっていたわけで
仮に厳格な契約にシフトしてしまうと、学生は本命企業と一発勝負、辞退なんて
したら違約金なんてことになりかねない。
まあ海外はそうなんだから、それでもやれなくはないだろうけど、当の学生にとっては
選択肢が大幅に狭まると思われる。

根本的な原因療法としては、流動化を進めて年齢給を無くし、内定者だけが切られる
ことのないようにすること。仮にやはり内定取り消しを優先するにしても、一定の
流動化が進んでいれば、新卒中心主義も薄まるので、そうそう悲観的になる必要も
なくなるだろう。

余談だが、民主党の「合理的な理由の無い内定取り消しは無効」
という規制法案は、一見学生に優しそうに見えるが、上記の観点からすると
まったく本質に触れないアドバルーンなのがよくわかる。
スポンサー様の既得権との絡みで大変なのだろう。

最後、三人のリスナーの意見は興味深かった。

�@“内定”なんてものがあるのは日本だけ。ヨーロッパにいたが、年齢や学歴
 だけでなく、現時点での能力を見るようにすべき
�A(内定式なども廃止して)いつでも学生が辞退できるようにすれば、
 実質的に企業は通年採用せざるをえなくなり、新卒中心主義は消える
�B新卒以外からの採用も義務付ける

三名とも、問題の本質が年齢にあると気づいている。
特に�Bは僕が言っている意見とほぼ同じで、大手には新卒以外、できれば非正規雇用労働者
からの採用枠を義務付けるべきだ。
これなら労組も反対しないし、実質的な職務給コースが組合員の中に生まれることに
なるから、一定の流動化は進むだろう。

「フリーターや女性、老人なんて雇えるか」
というような企業は反対だろうが、あそこも大赤字でしおらしくなっているので
今なら大きくは反対しないだろう。
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