新卒採用停止するビッグモーターって大丈夫なの?と思ったときに読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。
保険金不正請求問題をはじめ、街路樹の違法伐採、パワハラ、水増し修理など、その後も続々と不祥事発覚中の中古車販売業最大手ビッグモーターですが、とりあえず(来年再来年入社の)新卒採用を見送ることに決めたとのこと。


【参考リンク】ビッグモーター 来年と再来年春の新卒採用活動を停止


以前から述べているように、終身雇用を建前とする大手日本企業では、入り口の新卒採用が唯一の雇用調整手段です。

そこを見れば会社の状況はなんとなくわかるものなんですね。

新卒採用を見送る時、その企業は何を考えているのか。そして将来何が起こるのか。いい機会なのでまとめておきましょう。


日本企業にとって新卒採用は重要な意味がある


きっと多くの人は、新卒採用についてこう考えているはず。

「経営環境が悪化した時は減らして、景気が良くなったらその分増やせばいいだけだろう」

確かに、昔からジョブ型(職務給)でやっている企業の人事なんかはそれに近い感覚です。「人を採る」というアクションに文字通りの意味しかないからです。

でも、年功序列型でそれなりに規模の大きな組織だと、事はそう単純ではありません。

そういう組織の新卒採用というのは「新人を採る」ことにくわえて、年功序列という精緻な機械を止まることなく動かし続けるというミッションが含まれているからです。

たとえば、幹部候補選抜の重要な節目である課長選抜の候補が「〇〇年から5年間までの入社者とする」というような区切りを設けている企業の場合。

その期間に2年間新人を採っていない年があると、課長候補が全然足りてない状態になってしまうわけです。課長以外の主任とか部長選抜に際しても、全部おなじような不都合が起きるわけです。
だって、勤続年数で人の価値を評価する年功序列ですから。



【参考リンク】「40代前半がいない」人手不足を嘆く旭化成社長の発言に就職氷河期世代の不満爆発


さらに言えば、人材育成という点でも影響は無視できません。日本企業は現場に放り込んで先輩の横で仕事を覚えさせるOJTが主流ですが、人が入ってこないとその流れも途切れてしまうわけです。

たとえば今の建設業は業界全体が30~40代が異常にすくなく、業界全体で技能継承に失敗しているという意見もあるほどです。

まあ要するに、景気に合わせて1割ほど上下に動かすのはしょうがないですけど、3割以上減らしたりすると確実に将来に禍根を残すということです。

そしてそれは「年功序列が維持できなくなる」とか「人材が育成できていない」という形となって必ずあらわれるということです。

そう考えると、2年連続での新卒採用凍結を決めたビッグ社は、そんな将来のことなんかより今を生き残ることに必死だということは明らかでしょう。それなりの経営危機を迎えていると言っていいと思います。

ただし。すでに内定持ってますという学生も早く逃げるべきかと言われれば、とりあえずそこまでの心配はないだろうというのが筆者のスタンスです。

同社の現状は10カウントで言えばせいぜいカウント5か6くらい。本当にピンチ(カウント9くらい)の会社なら「内定取り消し」をかけてくるはずだからです。

内定取り消しというのは実質的に雇用契約が成立した後のクビみたいなものですから、禁じ手中の禁じ手、訴えられたらまず勝てないものなんですね。

それをまだ出していないということは、同社はまだまだ戦える、復活の手ごたえはあると(少なくとも経営陣は)考えている証拠でしょう。

余談ですが、たまに新卒採用の内定取り消しを出した企業が叩かれてたりしますが、筆者は上記の理由から、むしろ学生が入社前に危ない会社からリリースされて良かったんじゃないかと考えています。

そういう会社は悪徳というより、どっちかというと「我々は艦と運命を共にするが、若い諸君は生き残って再起を図ってほしい」くらいのスタンスでしょう。




以降、
企業のアクションでわかる経営危機の度合いと未来
ビッグモーターおよび同社内定ホルダーへのアドバイス







※詳細はメルマガにて(夜間飛行)








Q:「円のレートがずっと高かった90年代も給料は安かった?」
→A:「97年頃に一瞬上向いただけですね」



Q:「非常に魅力的だが有期雇用への転職はアリ?」
→A:「普通は有期雇用の方が高くなるはず。なので自分なら……」







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「すべての増税に反対します」って言ってる人達って何がしたいの?と思ったときに読む話

今週のメルマガ前半部の紹介です。

どうも。減税派の城繁幸です。
先週、経団連会長がインタビューで「消費税を含めた増税論議から逃げるな」と提言し、話題となりました。



【参考リンク】増税議論、逃げるな 経団連会長がめざす社会像


まあ普通のビジネスパーソンからすれば当たり前すぎる内容なんですが、SNS上での上記インタビューに対するコメントを見ると反発の声も多い印象です。特に“減税派”を名乗るグループの反発が目につきますね。

彼らが頑なに消費税を嫌がる理由とはなんでしょうか。また、サラリーマンは彼らとどういった距離感で接するべきなんでしょうか。

いい機会なのでまとめておきましょう。


「増税さえ許さなければ政府は勝手に無駄を減らす」論は周回遅れの議論


筆者自身は上記の通り、どちらかというと小さな政府支持なので広い意味では減税派です。

ただ、最近目にするようになった「とにかくあらゆる増税に反対さえすれば、政府は無駄を削減して結果的に小さな政府が実現するのだ」という主張には強い違和感を覚えます。

減税って無駄を削減した結果として実現するものであって、逆が成り立つわけではないからです。
そもそも、そういうこと言う人は組織というものが全然わかってないですね。

大企業もそうですが、政府が非効率なのは全体を把握している人がおらず、それぞれの省庁、部署がそれぞれの見える範囲で活動しているからです。

だから、たとえばAIにすべてのデータをつっこんで最も効率的な予算の使い方を決めてもらい、国民が無条件でそれに従うのであればテキパキ無駄も削減され小さな政府になるんでしょう。

でも、現状のまま生身の人間にやらせても、それぞれがとりあえず目に付くところ、削りやすいところから手を付けるしかないわけです。

たとえば非正規公務員を薄給で使い倒すほど金が無い一方で、わけのわからないNPOに金をばらまいている状況が併存しているのはそういう理由からですね。

確かにお金は余っている(ところもある)のかもしれないですが、政府を飢えさせただけでそれが上手く解消される保証なんてまったくないわけです。

そういう意味では、政府というのは「無駄をなくせ」と命令しても、そのしわ寄せがどこに行くのかやってみるまでわからないブラックボックスみたいなものなんですね。

では、日本というブラックボックスに「とにかく増税せずに無駄をなくせ」という指示だけ与えたらどういう結果になるのか。

プライマリーバランスの黒字化を先送りし続け、債務残高がGDP比250%になるまで毎年大赤字を垂れ流し続けている日本は、政府を飢えさせる実験を続けてきたようなものですから。

というわけで答え合わせ。まずは、みんな大注目の社会保障給付はこんな感じです。


【参考リンク】社会保障費、40年度6割増の190兆円


ちなみに、上記試算は2018年のものですが、今年既に20年近く前倒しでGDP比25%に到達しています。「飢えさせれば減る」どころかむしろ増えるスピードが加速していることになります。



ついでに言うと、もう一つ増えているものもあります。それはサラリーマンが天引きされる社会保険料です。


【参考リンク】社会保険料率30%時代 過去最高、現役の負担余地少なく


要するに、日本というブラックボックスに「税金上げるな、無駄なくせ」という指示だけ与えると、高齢者の社会保障給付は減るどころかむしろ増える一方で、サラリーマンの手取りは猛烈に減るというオチなわけです。

言い換えるなら、日本は「サラリーマンの手取り=無駄」と判断していることになります。

「俺や俺の家族の生活費が無駄とはなんだ!」と怒る人も多そうですが、しょうがないじゃないですか。それがこの30年間の結果なんですから。

我々にできることはその残酷な現実を踏まえた上で適切にふるまうことだけです。ではどうすべきかと言えば、公平な負担を要求し、「税は財源じゃない」だの「増税さえ潰せば無駄は減る」だのといった妄言とは距離を置くことですね。

消費税は高齢者も無職も自営業も公平に負担するわけで、当然ながらもっとも有力な選択肢として議論のテーブルに乗せるべきでしょう。

あ、ちなみにこれは筆者だけが言ってる話ではなくて、ある程度リテラシーのあるビジネスパーソンなら基本の“き”だと思います。

それは連合が一貫して消費税にもインボイスにも前向きな姿勢であることからも明らかでしょう。


【参考リンク】連合会長「消費減税すべきとの考え方ない」


【参考リンク】連合・芳野会長、インボイス「着実に導入すべき」


少なくともプレイヤーとして現実の負担議論に参加している彼らの中には「すべての増税に反対しとけば無駄は減る」という考えは1%も無いということです。

さて、ここで一つ疑問が残ります。

上記のような現実を無視しつつ、今さら周回遅れの「増税さえ潰せば無駄は減る」論を主張している人達って何なんでしょうか。

シンプルに考えるなら「この30年、ほぼ一貫して社会保険料だけが上がり続けた」というオチがまんざらでもないと感じている人達でしょう。

そう、社会保険料を天引きされる立場におらず、恐らく消費税くらいしか負担していない人達です。

ここではさらしませんけど、興味ある人はtwitterのプロフに「減税派」とか書いてる人を検索してみてください。

前回紹介した「匿名、仕事の話は一切しない、社会保険料の『し』の字も出さずに平日昼間から政府にタカる話ばかりしている」ようなどうしようもないのがいっぱい釣れるはずです。

まあ(品があるかないかは別にして)彼らがそういう主張をすること自体は合理的ではありますね。自分たちの負担は抑えたまま、自分の親は世界一手厚い社会保障を仕送りゼロ円でも受けさせられるわけですから。

でも「サラリーマンで減税派です」みたいな人はどうなんでしょう。そもそも、経団連と連合に逆張りして「SNS上にしかいない主に匿名さんのグループ」に合流する感覚が筆者には全く理解できませんけどね。

というわけで、堅気のサラリーマンは減税派とは距離を置きつつ、公平な負担の実現を正当な権利として要求し続けましょう。

消費税の引き下げはむしろ社会保険料引き上げ圧力になるので断固反対を、むしろ消費税増税とセットで高すぎる社会保険料の引き下げを要求するのが筋でしょう。

そう、それはまさに経団連会長の言わんとする「消費税を含めた増税論議から逃げるな」そのものなんですね。

なーんて書くと「消費税増税を容認すれば社会保障の見直しは永遠に実現しないじゃないか!」なんていう人達もいそうですが、そういう人達には「消費税引き上げに反対したって社会保障の見直しなんて実現しなかったし、社会保険料はするする上がったじゃないか」と反論してあげてください。

繰り返しますが、状況に応じて消費税引き上げを選択し、社会全体で負担することで自分たちの負担を抑制しようとするのは、サラリーマンの当然の権利です。

無職や自営業や(経費調整しまくって所得抑えてる)中小の経営者が本来負うべき負担まで背負う余裕は、もうサラリーマンにはありませんから。






以降、
「処理水放出と同じで、限界に達するまで放置すべき」論もやっぱりサラリーマンは同調すべきではない
日本の社会保障がここまでガバガバになったのは高齢者に負担感が無かったから







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Q:「役員を目指さない技術系サラリーマンが中間管理職になる意義は??」
→A:「管理職とヒラの立ち位置が急速に見直されつつあるのは事実です」



Q:「事務職でAI普及後も安泰な仕事とは?」
→A:「とりあえず漫然とこなしているだけの仕事はアウトでしょう」






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どうして政府って急に転職させたがるようになったの?と思ったときに読む話

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なぜか、岸田政権は「人材の流動化」に目覚めたようで、矢継ぎ早に手を打ち始めています。


【参考リンク】退職金課税見直し、勤続30年2500万円→45万円減の試算



【参考リンク】「転職の壁」打開へ半歩 迅速に失業給付、政府方針



そういえば“リスキリング”って言い始めたのも岸田政権でしたね。「学び直しで転職支援」という趣旨なので、あれも立派な人材流動化推進策でしょう。

政府も財界も、戦後長く終身雇用制度というシステムを維持してきました。長く務めるほど賃金も退職金も優遇しますよ、という形で長期勤続を育ててきたわけです。

それを抜本的に見直すというわけですから、実は岸田政権は戦後最大の地殻変動を起こそうとしていると言ってもいいんじゃないでしょうか。

なぜ、今なのか。そして、個人の働き方はどう変わっていくことになるのか。非常に重要なテーマなのでまとめておきましょう。


賃上げの唯一の処方箋は転職しかないことがはっきりしたから


個人が賃上げを勝ち取るには何をすべきかというと、答えは簡単!欲しい金額が提示されている求人に応募して転職するだけですね。そう、一般論としては転職が唯一の処方箋なんです。

まあ別に転職はしなくてもいいんですが「他社からこれだけのオファーいただいてますけど、行っちゃってもいいですか?」といって会社と交渉することも含めての“転職”と考えてください。

なぜそれが唯一の処方箋かというと、会社側からすれば転職しない人間を賃上げするメリットなんてないからですね。

ちょっと想像してみてください。

「転職なんてしないです、一生会社に忠誠つくします」って言ってる人がいたとします。
「可愛い奴だな(笑)」って賃上げしてくれる会社なんてあるんですかね。

筆者の感覚で言うと、「よし、じゃあ賃上げ無しで頑張れよ。あと、人気ない地方の事業所にも転勤ね」って使い倒す会社がほとんどだと思いますね(苦笑)

なんて書くと「そんなことはない!転職せずとも企業に賃上げさせる方法は他にあるはずだ!」って思う人もいるかもしれません。そういえばいろいろやりましたね。

・バラマキで賃上げ

既に債務残高GDP250%という世界最高水準のバラマキをやっても下がり続けているので効果ゼロです。

たまに「バラマキが足りてないからだ」って言ってる人がSNSにいますが、「匿名、仕事の話は一切しない、社会保険料の『し』の字も出さずに平日昼間から政府にタカる話ばかりしている」ことからただの頭のおかしい無職中高年だと思われます。よゐこはスルー推奨です。

・アベノミクスで賃上げ

これは識者の中にも“最後の希望”として期待している人も少数ながらいたんですけど、結果的に実質賃金は下がり続けているので(賃上げという意味では)失敗でしょう。

「10年やっても道半ば」とか言ってる人もいますけど、民間企業だったら3年で道半ばとか言ってる時点でビジネスマン失格です。よゐこは真似しないように。


【参考リンク】「アベノミクス道半ば。金融政策を転換する状況にない」自民・世耕氏


・賃上げ税制で賃上げ

岸田政権が初期に鳴り物入りで推進したものですが、覚えている人いますかね?筆者は名前くらいは憶えていますけど、実際に使っている会社は聞いたこと無いですね。

・「年収の壁」助成金で賃上げ

これはさすがに期待してる人なんていないでしょう(笑)


一応、答え合わせ。


【参考リンク】6月の実質賃金 前年同月比1.6%減 15か月連続でマイナス


要するに、あらゆることをやってみてダメだったから、今さらながら賃上げの王道である「人材の流動化」をやるしかない状況に追い込まれたということなんですね。

その判断自体は正しいと思います(まあ識者の多くは最初から指摘していたことですが)。

ひょっとすると「高度成長期から80年代いっぱいまでは、終身雇用でも賃金上がったし経済成長もできたじゃないか」と思う人もいるかもしれません。

筆者は実はあの時期の終身雇用が成功体験だったかについてはかなり懐疑的で、単に「人口ボーナスを抱えるタイミングで国全体をリセットできた」「冷戦下で安全保障にタダのりできた」等の幸運が重なっただけではないかと考えています。

実際、賃金に関しては昔からパッとはしてなくて、経済規模で世界一になったバブル時も、平均賃金では世界トップ10に入るか入らないか程度だった記憶があります。

だから正確には「近年、日本人の賃金が上がらなくなった」じゃなくて「昔から日本人の賃金はパッとしなかったけど、近年は輪をかけて上がらなくなった」が正しいです。

百歩譲ってバブル以前がまあまあ上手くいっていたことは認めるとしても、「Karoshi」が英語になるくらい長時間労働が慢性化してたり、今よりさらにすごい男女間格差を放置するのはマズいでしょう。

それらを見直す過程で、結局は終身雇用制度にメスを入れざるを得なかったはずです。





以降、
インフレが賃上げの追い風になるのは一部の優秀者だけ
法律でも政府でもない、自分を救えるのは自分だけ







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Q:「本当に海外を目指すべき?」
→A:「日本でなかなか豊かさを実感できない理由は2つあります」



Q:「当社の副業制度をどう評価されますか?」
→A:「素晴らしい制度だと思いますし、会社も利用を後押ししてくれるはずです」






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なんで女性議員団のフランス視察って大炎上したの?と思ったときに読む話

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先日、自民党の女性議員団がフランス視察の際にSNS投稿した写真が「昭和の海外視察みたい」と大炎上しました。


【参考リンク】今井絵理子・松川るいが参加した「パリ視察」全スケジュール…研修はわずか6時間、セーヌ川クルーズ、シャンゼリゼで買い物

若い人のためにフォローしておくと、昭和には大企業の偉い人や政治家が大勢で海外視察という名の慰安旅行にいって羽目を外すというのが広く行われていました。

企業に余裕がなくなって今ではすっかり影を潜めましたが、まさか令和の世に38名という規模で大々的にパリまで繰り出したのはビックリですね。

しかもやってるのが自民党女性局って……どちらかというとそういう古い因習を先頭に立って駆逐する側じゃないんですかね。やってることまんま昭和のオッサン丸出しなんですが。

とはいえ、本人たちはもちろん、多くの人もここまで炎上するとは思ってなかったはず。

なぜ「一昔前だったらなんてことなかったであろう一枚の写真投稿」がここまで炎上してしまったんでしょうか。いい機会なのでまとめておきましょう。

きっとそれは、今後何が起こるのかを示唆してくれることでしょう。


なぜ、今までだったらなんということもない海外視察ネタが大炎上したのか


意外と気づいてない人が多いんですが、今の日本円は50年ぶりの実質円安状態にあります。


【参考リンク】日本の株と不動産はなぜこんなに値上がりするのか。それは「半世紀ぶりの実質円安」だから…


結果、インフレがすごい勢いで進展中で、つい先日はとうとう日米の物価上昇率が逆転したことが話題となりました。


【参考リンク】日本の物価伸び率、米国を8年ぶり逆転 賃金上昇は鈍く


ガソリンや牛肉、小麦といった輸入に依存したものはもちろん、国内で作っている農作物、鶏卵といったものまで値上げはとどまるところを知りません。飼料や肥料は輸入しているし輸送コストも上がるから当然ですね。

でも、円安の破壊力をもっとも痛感できるのは海外旅行でしょう。

ちょっと前までは夏休みは海外で過ごすのが当たり前だったけど、ここ数年は国内で~という人たちは多いんじゃないですかね。

ちなみに筆者は大学生の時に中国からシルクロード通ってエジプトまで行くという世界半周旅行を3か月くらいでやったことがあります。

別に金持ちだったわけじゃなくて、90年代は3か月くらいバイトすればそれくらい普通にいけましたから。

今の学生を見てるとバイト代で海外旅行なんてどだい無理な話ですね。「最近の若者は内向きだ」みたいな意見はまったくナンセンスでしょう。

さて、そうなってしまった原因ですが、言うまでもなくアベノミクス以降の異次元の金融緩和にあります。

「日本の停滞の原因はデフレであり、デフレさえ脱却すれば全部うまくいく」というアレですね。
念願のデフレ脱却で本当にうまくいっているのかは「?」ですが。

フォローしておくと、アベノミクスにもいいことはいっぱいあります。それは以下のようなものです。

・都市部の不動産価格や株価が上がった
・インフレになったので企業は賃金据え置きで実質賃金を下げられるようになった
・インフレになったので消費税、所得税等の税収が増えた(あと社会保険料も)

実際、筆者の周囲でも、それなりの資産持ってる人、会社経営者やその大株主といった人たちは大変潤ってるしインフレを歓迎してます。

あと将来世代のために財政再建を気にかける人も高齢者や無職からも幅広くインフレ税を徴収できるようになったことは喜んでます(笑)

でも、資産なんて持ってなくて、「賃上げしないんだったらいつでも辞めてやるよこんな会社!」って上司に言えないような人にとっては、単に物価が上がって払う税金が増えただけなんじゃないでしょうか。

いや、実質賃金が下げられるようになったことで経営が安定するというのは長い目で見ればすべての労働者にとってメリットだし、インフレ税がっつり取れるようになったことも真面目に働いている勤労世帯にとっては凄く有意義なんですけど、実際問題として日常生活でそれらのメリットを意識している人は多くはないでしょう。

重要なのはアベノミクスの良し悪しではなく、有権者が今どういう心情なのかということなんです。

筆者のざっくりした印象ですが、9割くらいの人はインフレにメリットよりデメリットを多く感じているはず。

要するに、社会全体にやり場のない鬱屈したガスが充満している状態だったわけですよ。そこでこんな写真投稿するのは、火にガソリンぶっかけるようなものでしょう。




筆者自身は、別に議員が何人でどこに行こうが気にはしないです。そんなもん、高齢者の社会保障給付に比べれば髪の毛みたいなもんですから。

筆者がショックを受けたのは、どうやら自民党の議員は自分たちが何をしてきて、日本がどういう状況に陥っているのか、まったく理解していないらしいという事実ですね。

38人もいて「いや今こういうのはオープンにしちゃまずいでしょ」みたいな声が一人も出てこなかったというのは衝撃的です。

そんな初歩中の初歩すら理解できてないんだから「高齢者の社会保障給付で現役世帯が死にかけている」とか「とりわけサラリーマンが4割も天引きされていて、さらなる負担増のリスクが高まっている」なんてことは想像すらしていないと思いますね。

たぶん「バラマキで子育て世帯を全力応援♪」とか言って笑顔でサラリーマンの天引きを上げようとしてくるでしょう。

バラまくんなら最初から取るなとか、10天引きしても中抜きで子育て世帯に回る頃には3くらいになってるとかいった発想は、残念ながらこの人たちは全く持ち合わせていないと思われます。

その悲しい現実をばっちり思い知らせてくれたことが、炎上の背景にあったように思いますね。





以降、
いっぱい取っていっぱいバラまくのが自民党
維新の支持率がじわじわ伸びている背景にあるもの







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Q:「初めての転職で意識すべきことは?」
→A:「引き出しの多さはのちに必ず生きてきます」



Q:「ビッグモーター不正の陰に過剰なノルマ主義?」
→A:「数値目標と不正防止のガバナンス不在は別問題です」






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なぜ一部の大手企業って60代社員を優遇しようとしてるの?と思った時に読む話

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複数の大手日本企業がシニアの処遇改善に踏み切るとのニュースが話題となっています。SNSで上位トレンド入りしたので、関心のある層が多いんでしょう。


【参考リンク】60代社員を現役並み処遇 人材確保、住友化学は給与倍増


60代といえば「あのさあ、年金払う余裕ないから企業で面倒見てよ」と政府に一方的に押し付けられた世代です。

そんな人たちの処遇を抜本的に見直すという報道に驚いた人も多いはず。

何が企業を動かしたのか。企業の狙いはどこにあるのか。いい機会なのでまとめておきましょう。


とにかく人手が足りない企業、選択肢は2つあったが……


現在、一般的な日本企業の年齢構成というのは、50代半ば~60代前半が最大のボリュームゾーンとなっています。幸運にも80年代半ばから91年の間に世に出ることのできたバブル世代ですね。

(それまでも十分多かったのに)「例年の2倍以上の新卒採用枠」が卒業と同時に口を開けて待っていて、豪華クルーザーでの内定懇親会とか海外旅行研修とかやってた世代です、はい。

会社に丁度その年代で全然聞いたことが無い大学出のオジサンがいたら、時代の生んだあだ花、歩く不良債権みたいな希少種なので泣きながら手を振ってあげてください。

で、そのちょっと下の世代、40代半ばから50代前半は逆に非常に頭数が少ないのが一般的です。いわゆる氷河期世代という奴ですね。

つい最近「昔はいい大学出の優秀な人材が大学卒業後もフリーターとして残ってくれたから安く使い倒せた良い時代でした」っていうコンビニオーナーの独白が話題になってましたが、それだけ企業が正社員採用を絞っていたということです、はい。


【参考リンク】1店舗残して閉店したコンビニオーナーの告白「働く人が本当に集まらない」


本来であれば毎年前年比+αの数を安定して採用し、年齢別にみるとなだらかなピラミッド型になっているのが年功序列型組織にとっては理想なんですが、実際問題として終身雇用のせいでこうなっちゃってるわけです。

一度雇ってしまったらクビに出来ず、雇用調整ツールとしては新卒採用を絞る以外にないからですね。

筆者の記憶だと日本企業が一番新卒採用採っていたのは91年入社で、それまで年100人採ってた会社だと300人くらい普通に採ってましたね。

それが93~94年には「新卒採用見送り」とか普通にやってましたから。

まとめると、多くの日本企業というのは終身雇用制度のせいで非常にいびつな年齢構成になっているわけです。

そして、現行制度のもとでは60歳でいったん定年し、その後は嘱託として再雇用され給与はほぼ半減するのが一般的です(定年が65歳の企業もやはり給与水準は減るケースが多い)。

つまり、企業内の最大のボリュームゾーンであるバブル世代は、もうすぐ給与半減の超絶消化試合モードに突入することが確定しているわけです。

「同じ仕事なのに給料半分にされたらやる気なんてなくなるよ」という人がほとんどじゃないでしょうか。

やる気なくなった彼らバブル世代の穴を誰が埋めるのか。当たり前ですが少子化の進む今、新卒採用数を増やすのは至難の業でしょう。実際には大手であっても採用枠を埋められない企業が多いのが実情です。


【参考リンク】18歳新成人は112万人 20歳迎える人は昭和43年以降で最少

40代後半の氷河期世代を“補充”するというのが、おそらく最も現実的なプランでしょう。新卒で思うような就活が出来なかった彼らの潜在的な転職ニーズは強いと思われ、転職市場で「求む氷河期世代!」と正規の求人を出せば入れ食い状態になるのは間違いないはず。

実際、既にそういう方向に動いている企業は大手以外では結構ありますね。中小なんて贅沢言っていられませんから。

ただ、ここで予想外の制約が発生します。そう、一昨年に施行された例の70歳雇用ですね。従業員の70歳までの就業機会の確保について、企業に努力義務を課すものです。

「氷河期世代を採るのもいいけど、どうせ70歳まで何らかの形で雇用機会を保障しないといけないなら、バブル世代にもっと金積んでリブートして再戦力化した方が合理的なんじゃないか」

これが、一部の大手企業で60代の処遇見直しが進む背景でしょう。誰かの雇用を保証すると別の誰かがスルーされるという、この30年ほど繰り返されてきたいつものアレですね。

というわけで、上記報道に対するSNS上の反応をつらつら見ていると
「いいぞうちも続け」「高齢者の活躍できる社会を!」
みたいな肯定的な反応が多いんですが、広い目で見るとそんなにいい話でもないのでは、というのが筆者の見方です。





以降、
60代を優遇しようとしている企業が見落としていること
やるんなら全世代をリブートしろ






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Q:「インボイス反対運動についてどう思いますか?」
→A:「論外でしょう」



Q:「休職歴は人事にどの程度影響するのでしょう?」
→A:「実は『影響がある』と明言している企業は聞いたことが無いです」





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城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
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